タレント性で劣る東福岡の例年と違う武器 総体連覇も選手権に向けより厳しい競争へ

川端暁彦

優勝候補筆頭だった市立船橋

東福岡がPK戦の末に市立船橋を破り、連覇を達成した 【写真は共同】

 8月3日から9日にかけて兵庫県三木市・神戸市を舞台に高等学校総合体育大会(通称インターハイ)の男子サッカー競技が開催された。真夏の太陽の下、7日間で最大6試合を戦うタフな大会として知られる高校総体の決勝戦に勝ち残ったのは、東福岡(福岡)と市立船橋(千葉)。現代の高校サッカーを代表する名門2校だが、全国のファイナルではこれが初対戦だった。最終的には1−1からのPK戦(6−5)の末、東福岡に軍配が上がったものの、甲乙付けがたい好勝負だった。

 準優勝の市立船橋は前評判からして優勝候補の筆頭格で、「順当」と評価される勝ち上がりだった(もちろん、個々の試合は苦戦もしたのだが)。そんなチームを率いるのは就任5年目を迎えた39歳の朝岡隆蔵監督。初年度にいきなり高校サッカー選手権を制した指揮官は、名門のプレッシャーにさらされつつも、勝負の用兵と選手の育成を両立させる指導者として評価を確立させてきた。同じ千葉県の宿敵・流通経済大柏を率いる大ベテラン・本田裕一郎監督からも「朝岡くんは本当にすごい指導者で、楽しみなんだよ」と、親子ほどの年の差ながら「好敵手認定」を受けているほどである。

 前々監督の布啓一郎氏(ファジアーノ岡山コーチ)のように全国区のタレントが集まってくるような時代ではなくなったが、それでも次々に雑草が生えてくるように、たくましい選手が出てくる面白いチームになっている。この大会を戦った選手も中学時代から全国区の選手はトップ下の高宇洋くらい。しかし、FW永藤歩は超俊足という絶対的な武器を持つ異色のストライカーとして成長を遂げ、キャプテンの椎橋慧也は確かな技術とタフに攻守を戦い抜ける“市船らしさ”を持ったボランチとして今大会でも確固たる存在感を見せた。二人ともJリーグ入りが確実視される選手たちだ。

個性ある指導で成長を促す

市立船橋の1年生・杉山(右)はFC東京のユースチームに上がれなかった選手だが、指揮官も驚くほどの成長を見せた 【写真は共同】

 下級生でも、守備の軸となっているDF杉岡大暉は今年からU−17日本代表にも名を連ねるようになった期待株。しかし中学時代はFC東京の中学年代のチームから高校年代のチームへ昇格できず、大きな挫折を味わっている選手である。主力の負傷で先発起用された左サイドバックの1年生・杉山弾斗もFC東京の高校生チームに上がれなかった選手だが、「驚くほど成長してくれた」と朝岡監督も絶賛するプレーぶりで決勝進出に貢献してみせた。彼もまたより高いステージへ登っていく予感がする。

 朝岡監督は個人を鍛えることがチームを強くすることだという明確な方向性を持っており、夏まではあえて戦術的に負荷の大き過ぎる布陣や、「合わないであろう」組み合わせで試合をさせて、「個人として課題解決に挑ませる」こともあるほど。「良いチームですね」と言われたがる指導者が多い中で、個性ある指導を貫いている。

 その中で激しく、そして厳しく競争を促しながら、最終的には秋から冬にかけて一個のチームにまとめ上げてくる。敗戦後も「(総体は)厳しい環境の中で6試合を戦い抜けたことが収穫。成長してくれた選手もいる。手応えはあった」と毅然(きぜん)とした態度を崩さず、むしろ負けたことがエネルギーになると前向きですらあった。「ここから選手権に向けてまた競争させる」という言葉は、控え部員をケアするための決まり文句ではなく、本気の発言と見て間違いない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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