宮本恒靖がボスニアにアカデミーを設立 サッカーで民族融和を目指す
協力してくれたさまざまな人たちとの出会い
宮本は主に広報活動や現地での交渉役割を担い、さまざまな人たちに出会った 【(C)Little Bridge Japan】
現地の行政やサッカー協会、地元のスポーツクラブなどさまざまな関係機関との交渉であったり、元サッカー選手という強みを生かせるので、実際に現地に行くたびにサッカークリニックを開催して、子どもたちと一緒にボールを蹴ったりしました。ボスニア・ヘルツェゴビナの元代表選手たちも協力してくれて一緒にクリニックに参加してくれました。
「元サッカー日本代表のキャプテンがモスタルにアカデミーを作る」という風に地元のメディアでも話題にしてもらうことなど、主に広報面での役割を担ってきました。
――交渉では全員が賛同してくれたわけではないと思うのですが?
はい。ただ、このプロジェクトに日本人が参加しているということはプラスに働きました。日本というのは中立国として見られています。モスタルの街にも日本のODA(政府開発援助)で導入された路線バスが走っていて、バスには日本の国旗が描かれています。日本人がこの地域にとって良いことをしてくれているようだという思いで、見守ってくれています。
――現地ではイビチャ・オシムさんにも会ったそうですね。
今年の1月にも会いましたし、去年も2回ぐらい会いました。オシムさんは「ボスニア・ヘルツェゴビナではお金の動かし方には気をつけろ」と(笑)。あとはサッカー協会のSNSなどで啓発というか、プロモーションのところで協力してもらったりしましたね。
――現地で準備を進めているのはFIFAマスターの同期たちですか?
彼らも弁護士だったり、FIFAの職員だったり、それぞれがそれぞれの仕事を持っているので、現地に頻繁に行けるわけではありません。現地にはプロジェクトマネージャーを置いて、自分も含めたプロジェクトチームとしてメールや電話会議でやり取りしながら進めています。
プロジェクトマネージャーってプロジェクトの中心でわれわれの思いをしっかりくんでくれる人でないといけない。モスタル市のスポーツ協会のスタッフと話をしていく中で、協会のスタッフの一人が立候補してくれたんです。彼はもちろん町の歴史的な背景も理解しているし、われわれの思いもしっかりと理解してくれている。彼の申し出を断る必要もなかったですし、それまでのミーティングの中で彼のキャラクターも分かっていたので適任でした。彼は現地のコーチをリクルートしてくれたり、現地の関係機関と連携をとってプロジェクトを進めてくれています。
――今回の活動を通じて、勉強になったことや身についた能力などはありますか?
プロジェクトを実現に移していく場面では、言葉の違いはあれども熱意であったり本気度というのが試されるんだなというのはすごく感じました。選手時代には経験したことなかったので、新鮮な経験でしたね。プロジェクトはまだ途中なので最終的にうまくいくかどうかはこれからですが、優秀なサポートスタッフがいてくれて非常に助かっています。
課題はアカデミーの運営費
宮本は生徒からはお金を取らず、アカデミーの運営費をどうまかなうかに心を砕く 【(C)Little Bridge Japan】
設立前は現地に交渉にいっても、突然日本人が何しにきたという話ですし、1年間で現地に4回通って、自分が行けない期間も他のメンバーが現地を訪れて、メールや電話会議で少しずつ話を進めていきました。でも、まだそれで終わりではない。これからのアカデミー運営に必要な運営費の部分。それは大事ですね……一番大事かも知れないです。
――アカデミーの生徒からお金をもらう予定は?
参加する子どもたちからは取らない予定です。今後も取らないつもりで計画を進めています。
――運営費をまかなう手段として、クラウドファンディングを行うそうですが、選んだ理由、期待することは何ですか?
このプロジェクト自体をより多くの人に知ってもらって、私たちの思いに共感してもらいたいと思っています。お金はもちろん必要ですけれど、多くの人たちにこのプロジェクトに参加してもらって、ボスニア・ヘルツェゴビナの現地の人たちにも日本の多くの人たちの気持ちが伝わればいいなと思っています。
他にも運営費については、例えばヨーロッパのクラブに話を持っていって協力をお願いしようとしていますし、国内外のいろいろな場所で企業や財団などにプレゼンをして、お金を集めようという動きをプロジェクトのメンバーとやろうとしています。
「多くの人にプロジェクトに参加してもらいたい」
プロジェクトを多くの人が認知し、参加してくれることを宮本は願っている 【(C)Little Bridge Japan】
ボスニア・ヘルツェゴビナでは同じ学校に通っていても民族によって授業のカリキュラムが別だったり、それぞれの民族が一緒に活動する機会が多くないんです。このアカデミーができることで、それぞれの民族の子どもたちだけでなく親たちが同一の場所に行く機会ができるということだけでも、かなりの変化はあると思うんです。
同じ学校に通っているのに、民族によってカリキュラムが別というのは、はたから見たら不思議じゃないですか。アカデミーでサッカーになったらみんな同じことをやるというだけで、前進だと思います。
――テーマである民族融和とは、どうなったら融和したと言えるのでしょうか?
それも本当に現地に住む人たちが将来的にそれを感じられる環境とか、今の子どもたちが大きくなった時にそれを変えていけるものとしか今は言えないですね。そこに少しでも貢献できたらいいなと思います。
――日本で記事を見たわれわれが協力できることはありますか?
まずはこのプロジェクトを知ってもらって、SNSなどでシェアして欲しいと思います。われわれが自分たちの仲間だけでできることには限界がありますが、日本の社会でこのプロジェクトが多くの人に認知されることだけでも、ボスニア・ヘルツェゴビナの社会に良い影響が出ると思っています。
そして多くの人からの支援を頂く仕組みとしてクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げました。自分たちはアカデミーの運営費が必要ですし、その運営費を多くの人から募ることのできるクラウドファンディングの仕組みはわれわれの思いに合致しています。
ボスニア・ヘルツェゴビナは遠い国なのですが、日本のサッカー界とはつながりの多い国です。紛争の爪痕がある中で、どうしても経済的にもかなりしんどい思いをしている。一人でも多くの人にプロジェクトに参加してもらえたらうれしいですね。
(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)