G大阪が見せたACLへの本気度 痛感したアジア勢力図の激変と対応策

下薗昌記

「一番大事にしていたタイトル」を逃す

ACL準決勝で広州恒大に1分け1敗で敗れたG大阪 【写真は共同】

 2008年に一度だけその頂に上り詰めたことがある、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)という「山」に今季再び挑戦したガンバ大阪。準決勝で広州恒大に2戦合計1−2で敗れ、「今年、1番取りたかったタイトルというか、一番大事にしていたタイトルが終わってしまった」と宇佐美貴史が呟いた言葉はチームの総意でもあった。

 昨年、クラブ史上初の3冠を勝ち取った大阪の雄は、国内外合わせると計6つの大会でタイトルの可能性があっただけに、一部のメディアは「6冠制覇」がチームの目標であるかのように書き立てた。しかし、「出るからにはどの大会も優勝を目指す」という長谷川健太監督らの言葉を曲解しただけにすぎない。

 昨年、3冠を獲得した直後「ACLは本当に楽しみ」と早くも長谷川監督が言えば、始動直後の1月にはエースの宇佐美が「アジアで一番強いチームだと証明することが、今のガンバにとって必要なこと。どのタイトルも大事だけれど、やはりACLを取りたい」と語っていた。Jリーグでも最も過密日程を強いられたG大阪が、今季最優先してきた大会がACLだった。

アジアの勢力図の変化を目の当たりに

ホームで広州富力にまさかの黒星(0−2)を喫し、グループステージ序盤から苦戦を強いられたG大阪 【写真は共同】

 しかし、チームは3年ぶりのACLで序盤から思わぬ苦戦を強いられた。ホームで広州富力にまさかの黒星(0−2)を喫し、グループステージの序盤3試合で得た勝ち点はホームのブリーラム・ユナイテッド戦の引き分け(1−1)による1のみ。守備の要である今野泰幸を負傷で欠いていたことや、新戦力として期待された小椋祥平らのフィット感のなさも災いしたが、ACLという「山」の形も7年前とは異なり、より険しさを増していたのもまた事実だった。遠藤保仁も言う。
「昔はグループステージでタイのチームに苦戦するなんてことはなかったけれど、相対的にアジアのレベルは上がっているなと感じた」

 遠藤の言葉を補足すると、アジアのレベルが上がったと言うよりは資金力を持つクラブに苦戦を強いられたのがグループステージの実情だ。広州富力のモロッコ代表FWアブデルラザク・ハムダラーやブリーラムの元ブラジルU−23代表のジオゴ・ルイス・サントらは近年のJリーグには見当たらない個の強さを持つアタッカー。3試合を終えて、グループステージ敗退の危機に立たされていた当時、強化本部長の梶居勝志も「3試合が終わって感じるのは強烈な個を持つFWさえ前にいれば、という戦い方をするチームが増えているということ。中国勢もそうだし、タイもどんどんレベルが上がっている。そういう意味でも高みを目指す上では外国人枠の充実は最低限だと思った」とアジアの勢力図の変化を感じ取っていた。

 ユースからの昇格組4人とベガルタ仙台から赤嶺真吾、横浜F・マリノスから小椋を加えたにすぎない開幕当初の新戦力は、7年ぶりの頂を目指すには心もとない“軽装備”だった。だが、新スタジアムの稼働に向けたクラブハウスの移転など、必要不可欠な出費を抱えているクラブにとって大型補強ができなかったのもまた事実。「当然、久々に出て優勝するのは簡単じゃない。移動もある中で、選手のレベルと選手層の厚みを考えたら疑問符もあったけれど、国内で結果を残したメンバーでアジアでの立ち位置を確認するのが一番の狙いだった」と梶居は今大会の狙いをこう振り返る。

クラブが講じたACL対策

 戦力補強には決して楽ではない財政事情が反映する格好となったが、クラブもバックアップを怠ったわけではない。今季、チームに加わった和田一郎コーチはクラブの「ACLシフト」の一環だ。「ACLを戦う上で数多くのアジアの情報を持っている和田をリクエストした。ACLに出ていなければ、和田の獲得はなかった」(長谷川監督)。日本代表でテクニカルスタッフやアシスタントコーチとして4度のワールドカップを経験した分析の第一人者は、長谷川監督のたっての願いでチームに加入。クラブ側もバックアップした格好だ。

 さらに、1月の始動直後にはアジアでの知名度を高めるべく、クラブが力を入れるアジア戦略の一環として、インドネシア遠征を実施。現地のペルシジア・ジャカルタとの親善試合を行ったが、この遠征も3年ぶりにACLを戦うチームに東南アジアのアウェーを体感させる狙いも込められていた。クラブでアジア戦略を担当する河合直輝氏は「実際にACLでアウェーに遠征する際と同じ日程で、2日前に現地に入り、前日にはスタジアム練習と公式会見という設定で試合に挑んでもらった」と水面下での努力をこう説明する。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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