G大阪が見せたACLへの本気度 痛感したアジア勢力図の激変と対応策

下薗昌記

今野が感じた「本当のビッグクラブ」

リカルド・グラルと競り合う今野。広州恒大は「完全にアジアのビッグクラブ」とシャッポを脱いだ 【写真は共同】

 現有戦力をベースに、クラブが取りうる最善の策を講じてACLを戦い抜いて来たG大阪。そんなクラブの立ち位置が鮮明に現れたのが「間違いなく優勝候補の筆頭」と百戦錬磨の遠藤でさえその力を認めざるを得なかった広州恒大との準決勝だ。

 グループステージの序盤で思わぬ苦戦を強いられたものの、絶体絶命だったブリーラムとのアウェー戦(2−1)ではJリーグ勢で初めてとなる勝利を勝ち取り、準々決勝の全北現代モータース戦ではKリーグ王者に対して、フィジカルコンタクトでもまったく引けを取らない球際の強さも発揮。近年のJリーグ勢がしばしば指摘されがちな課題に関しても、力を見せてきたのが「攻守の切り替え」「球際で負けないこと」を全面に押し出してきた長谷川ガンバだった。準々決勝のセカンドレグ(3−2)ではアディショナルタイムの劇的な決勝点で準決勝に勝ち上がり、7年ぶりの頂はうっすらと視界に入ったかに見えた。しかし、やはりアジアの頂点は“軽装備”のチームに安易な登頂を許さなかった。

 13年にACL初優勝を達成した広州恒大は年間予算100億円規模を誇り、今大会途中にもルイス・フェリペ・スコラーリ監督を新たに招聘(しょうへい)し、元ブラジル代表のパウリーニョらセレソン経験者をズラリと並べる超アジアレベルの外国人枠をフル活用。その金満ぶりに対しては今野も素直にシャッポを脱いだ。
「完全にアジアのビッグクラブ。日本ではタイトルを取った数とか、まずまずお金をかけているのがビッグクラブの定義なんだろうけれど、ブラジル代表なんかもいる広州恒大みたいなのが本当のビッグクラブなんだろうなと思う」

 個対組織――。アウェーでの準決勝第1戦を1−2で落としたG大阪は第2戦、夏場以降調子を落としている宇佐美をベンチに温存し、パスサッカーの申し子、二川孝広を先発起用し、パスサッカーで敢然とアジアの巨人に立ち向かった。

「広州恒大は強力な外国人選手と中国代表に金も使っているだろうけれど、僕らにはお金で買えない戦術的な武器がある。健太さんが監督になって3年間積み上げてきた組織としてのサッカーはこちらの完成度が高い」(丹羽大輝)

 前半早々にカウンター狙いの戦いに切り替えてきた広州恒大に対して、押し込む場面は作るものの決定機らしいチャンスは90分作り切れず、スコアレスのまま無情のタイムアップ。エウケソンとリカルド・グラル、そしてパウリーニョが攻めを担い、中国代表と韓国代表でゴール前にかんぬきをかける赤い巨人は、攻守両面でG大阪を確かに上回っていた。

必要不可欠な外国人枠の充実

G大阪は限られた選手層で準決勝まではたどり着いた。この財産を無駄にしないためにも、まず来季のACL出場権を得ることが必要だ 【写真:フォトレイド/アフロ】

 準々決勝で対戦したKリーグ王者・全北現代にはアウェーで劣勢を耐え切り、ホームでは土壇場で突き放しきる戦いを見せたG大阪だが、準決勝では攻守両面で甘さを見せた。ピッチ内で常に冷静な判断を見せる背番号7の総括は、やはり的確だ。

「残念な結果だけれど、トータルスコアで負けてしまった事実があるのでもう少し力をつけてやっていきたい。アウェーでも先制しながら逆転されているので、守り切る力もちょっと足りなかったし、今日のような試合でも得点を奪って勝ちきれなかった。攻守ともにもう一つ上のレベルにしたい」(遠藤)

 2ステージ制への移行もあって、「勝てば勝つほど日程が厳しくなる」(遠藤)ACLをタフに戦い抜いてきたG大阪は、限られた選手層で準決勝まではたどり着いた。「前回、ACLで優勝したメンバーが数人しか残ってない状況の中で、新しいガンバのプレーヤーたちがこういう素晴らしい大会を経験できたのは大きな財産になるんじゃないかと思う」(長谷川監督)。自身にとって初となるACLの挑戦を終えた指揮官が口にした“財産”を無駄にしないためにも必要になるのが、まず来季のACL出場権を得ることだ。

 そして、次回大会では質量ともに外国人枠を充実させることも不可欠だ。開幕当初、梶居強化本部長は「久々に出るACLでどういう内容になるのか。それを見て、16年の新スタジアム元年にどういうチーム作りをするか見極めるのが狙いだった」と話していた。

 今大会のACL決勝に進出した広州恒大にはパウリーニョらセレソン経験者4人が、アル・アハリにはブラジル代表のエヴェルトン・リベイロやベンフィカのエースだったリマらが、大一番でモノを言う“重装備”として備わっていた。もはや、ACLが単なる組織力や精神論だけでは頂点に立てない遥かなる高みであることを3冠王者は肌で感じたはずだ。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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