男子プログラムはどこまで進化する? 五輪王者・羽生らトップ選手の場合
得点は青天井とも言われ、選手はGOE(出来栄え点)の加点や、基礎点が1.1倍になるプログラム後半のジャンプの特典を狙うなどの戦略をもって、プログラム(ジャンプ)構成を組み立てるようになっている。12−13シーズンからは、FS(フリースケーティング)だけでなく、SP(ショートプログラム)でも後半のジャンプの基礎点が1.1倍になった。
今回、お話をうかがった国際審判員の岡部由起子さん 【スポーツナビ】
ジャッジは最高得点を気にしていない
06年トリノ五輪で金メダルに輝いたプルシェンコが当時記録した世界最高点は、合計点が250点台だった 【Getty Images】
さて、今季は果たしてどこまで世界最高点が更新されるのか。ひとつの見どころになるかもしれないと、ジャッジの立場から得点についてお聞きしたところ、岡部さんから意外な回答が返ってきた。
「技術点の基礎値はテクニカルパネルが、GOEとPCSはジャッジが、それぞれ別に点をつけていますので、ジャッジ自身は得点がどれだけ上がるかは予想がつきません。それに、ジャッジは最高得点が出たかどうかはまったく気にしていないです。われわれはいいパフォーマンスには良い点数を出したいというスケートが大好きな人種ですので、PCSの各項目でも機会があれば10点満点を出したいし、GOEでも最高の3点を出したいと思っているのです」
男子は4回転の種類を複数入れないと勝てない
プルシェンコは4回転トウループ+トリプルトウループ、トリプルアクセル、トリプルルッツの3つのジャンプを前半にまとめて跳び、GOE加点を含めてジャンプだけの合計得点は30.65点だった。一方の羽生は冒頭に4回転トウループを跳び、基礎点が1.1倍になるプログラム後半にトリプルアクセルとトリプルルッツ+トリプルトウループの攻めの構成を成功させて、同じくジャンプのみの合計点で37.26点の高得点をマークしている。
ソチ五輪での羽生はSPのジャンプのみの合計点で37.26点の高得点をマーク 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
複数種類の4回転を組み込んだり、SPでもFSでも後半に4回転を含めた複数回のジャンプを跳んだり、FSでは3回以上の4回転を入れてきたりと、体力的にも精神的にもハードなジャンプ構成を組み立てるのは、メダル争いを展開するトップ選手では当たり前になってきた。
「ソチ五輪を経て、これからの男子は4回転の種類を複数入れないと勝てなくなってきたというのが一番大きな変化だと思います。複数回も2回ではなく、3回、4回入れる選手もいるのが現状で、シニアはもちろん、ジュニアでさえ4回転を2度跳んできています。先日のジュニアグランプリシリーズ米国大会では成功はしませんでしたが、FSで4回転を3度挑戦して2度成功させた選手がいました。シニアのトップ選手は、当たり前のように2度以上成功させることが勝つ鍵になっていると感じます。ただし、ジャンプだけでは勝てず、演技の完成度が高い選手でなければ勝負を制することはできない時代に入ってきましたね」
岡部さんによれば、トップ選手には技術力と演技力の両面がしっかりと備わっているという 【写真:ロイター/アフロ】