男子プログラムはどこまで進化する? 五輪王者・羽生らトップ選手の場合

辛仁夏

注目される羽生の挑戦的なプログラム構成

 その中でも、昨季はGP初戦となった中国杯での衝突アクシデントで見送られた羽生の挑戦的なプログラム構成が、今季どうなるのかは見ものだ。シーズン開幕前、羽生は「SPで後半に4回転を跳び、FSでは4回転を3本入れてうち1本は後半に持ってくる」と公言。初戦となったオータム・クラシックではすべてプログラムに組み込んできた。けがが癒えた今季は、何が何でもチャレンジすると意気込む。すべてのジャンプを成功させれば、他を圧倒する高得点をたたき出す最強のジャンプ構成になるのは間違いない。

今季は羽生の挑戦的なプログラム構成にも注目が集まる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 注目は、シーズン序盤戦の試合でどこまで完ぺきに跳びこなせるかだろう。技術以上に強靱(きょうじん)な精神力と体力がなければ、これほど内容の濃いプログラムを滑り切ることは不可能に近い。それでも、まだ20歳で負けず嫌いの羽生が成し遂げられる可能性は高い。五輪や世界選手権のタイトルを手に入れてもなお、さらに上を目指すためのモチベーションを持ち、技のレベルアップや前人未到の世界に自らが最初の一歩を踏み出したいという飽くなき願望が強いからだ。

「羽生選手はすべてに対してすごく前向きで、何をもっと強化すべきかを常に考えています。4回転を含めて質のいいジャンプを持っていますし、スピンもうまくなっており、技術だけではなく、演技をする上での見せ方を本人が研究していますね。そのような羽生選手の姿勢が、進化につながっているのではないでしょうか。五輪シーズン以降は、トータルパッケージとしてジャンプもスピンもステップも向上し、スケーティングスキル、演技力もよくなり、あらゆる面でそろってきたと感じています」

 18年の平昌五輪まで、今季を入れて3シーズン。男子はいよいよ4回転時代が本格化するはずだ。昨季までのトウループとサルコウの2種類だけでなく、羽生自身がどの選手よりも先に試合で成功させて歴史に名を刻みたいと望んでいるループやフリップ、ルッツに果敢に挑んでくる選手が出現するのも時間の問題になってきている。これまで主流のジャンプは3回転だったが、もしかしたら平昌五輪での男子は4回転になっているかもしれないほど、急速にレベル向上が図られそうだ。

「男子の場合、ジャンプ構成を含めたプログラムがより高度になって進化してきたと思います。ただ、4回転が主流になる時代がいつになるかはまだ見えません。それでも、今のジュニア世代をみると、複数回入れないと勝てない時代になりつつありますので、この世代がシニアに上がってくる頃には、4回転を跳ぶことが当たり前の時代になることは予想されますね。加えて、近年はトップ選手もコーチもいかに得点をアップさせるかを考えている中で、さまざまな作戦を立ててきています」

個性豊かな男子のトップ選手たち

 内容も密度も濃いプログラムを作り、自身の個性を発揮した演技で競い合うトップ選手たちには、それぞれ十八番の技や独自の武器が備わっている。自分らしさを出すことで観客やジャッジを魅了しながら、勝負においても優位に立つことができるわけだ。では、岡部さんがみるトップ選手たちの強みを聞いてみた。

「羽生選手はさまざまなエレメンツ、ムーブメントが器用にでき、トータル的な演技力が強みです。チャンの魅力はスケーティングそのものですよね。正確なエッジワークとディープエッジ、そしてスピードと力強さ、その反面、軽やかさも持ち合わせています。

 フェルナンデスは細かい動きやコミカルな動作が魅力でしょう。テンもトータルパッケージを持つ中で、音楽の強弱やニュアンスの出し方が上手だと思います。一蹴りの加速の付け方やあらゆる方向へ自在に滑ることができるのはハン・ヤンです。そしてブラウンは、あらゆるスケーティングムーブメントが密度濃くプログラムに入っており、トランジションも個性豊かというすごさがあります」

「ブラウンは、あらゆるスケーティングムーブメントが密度濃くプログラムに入っており、トランジションも個性豊か」と岡部さん 【Getty Images】

 1人として同じタイプの選手がいない個性豊かな男子は、4回転時代の本格到来とともに世代交代の時期を迎え、まさに群雄割拠の時代に入ったと言ってもいいだろう。ハイレベルな戦いが繰り広げられる中、切磋琢磨(せっさたくま)し合えば、さらなる進化が期待できるに違いない。

 フィギュアスケートで4年に1度の五輪が終わるごとにルール改正が行われるのは、より楽しく面白い競技になるように考えてのことだという。新しい採点方式が正式に導入されてから12年が経ったが、岡部さんは今が完成形とは考えていない。

「今後もルール改正される余地はまだあると思います。よりオリジナリティのある演技でフィギュアスケートらしさを出していくためには、さらに変化していくべきだと思っています」

岡部由起子

ISU(国際スケート連盟)テクニカル・コントローラー、レフェリー、ジャッジ。現役時代はシングル、ペアで活躍。シングルではインターハイ優勝、国体皇后杯優勝、全日本選手権3位、ペアでは全日本選手権優勝。現在は日本唯一のISUテクニカル・コントローラーとISUレフェリーの有資格者として国内外で活動しているほか、フィギュアスケートの解説者、セミナー講師も務めている。

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著者プロフィール

 東京生まれの横浜育ち。1991年大学卒業後、東京新聞運動部に所属。スポーツ記者として取材活動を始める。テニス、フィギュアスケート、サッカーなどのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材。大学時代は初心者ながら体育会テニス部でプレー。2000年秋から1年間、韓国に語学留学。帰国後、フリーランス記者として活動の場を開拓中も、営業力がいまひとつ? 韓国語を使う仕事も始めようと思案の今日この頃。各競技の世界選手権、アジア大会など海外にも足を運ぶ。

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