車いすバスケ男子日本の成長と課題 リオ行き決定は新たなリスタート

荒木美晴/MA SPORTS

成長著しい“逸材”16歳の鳥海

チーム最年少・16歳の鳥海。成長著しい逸材の成長がリオに向けて明るい材料だ 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 そのユニット・ファイブの一員であるチーム最年少・16歳の鳥海連志の成長は、リオに向けて明るい材料だ。もっとも、中学に入ってからバスケを始め、競技歴わずか3年で代表入りした逸材で、すでにスピードを生かした機動力は国内トップレベル。さらなる伸びしろを見込まれていたわけだが、実際のところ、彼は海外相手のタフなゲームの中でも気負わず、試合ごとに戦略も相手の能力も吸収し、及川ジャパンの“キーマン”にまで変容していった。大会終盤は体力不足からシュート率が落ちることもあったが、「彼の一番の特徴は、コートでいろんな選手のプレーを盗めること。たとえば香西や豊島のボールハンドリングやシュートシーン。もちろん香西や豊島がそれを教える時間を作っているんですが、鳥海の天才的なところはとっとと実戦でやってしまうところですね」と及川HCは評価する。

 成長期の今、仲間に会うたび身長が伸びていることを驚かれるのだそう。身長が伸びれば、プレーの幅も広がる。鳥海自身は「自分はアグレッシブなプレーヤーなので積極的なバスケをみてもらいたい」と力強く語り、自信をのぞかせる。

世界水準に向けて必要なさらなる強化

 とはいえ、リオを見据えた時、チームとしての課題も浮かび上がった。体格に勝る強豪チームとの試合では、力と力の戦いになれば技だけで対応することは難しいと感じる場面もあり、今後のフィジカル面の向上は必須だろう。また、準決勝で対戦し、41−70と完敗を喫したオーストラリアには「世界との差」を突きつけられた。序盤から圧倒的なプレッシャーをかけられ、精度の高いディフェンスでシュートミスを誘われた。後半は日本らしい戦いができたが、「われわれが“これをやろう”と臨むのに対して、向こうは持っている選択肢やカードが10個くらいあった」と及川HC。香西は「直線のスピードやカットしても乱れない体幹、チェアスキルなど個々の能力が高い。サイドを崩しながらオフェンスをしようとしたが、できなかった」と唇をかみ、藤本もまた、「こちらにリズムを与えないために、あえてうまくファウルを取らせたり、たくさんの作戦の引き出しを使ってディフェンスをしてきたので非常に苦しんだ」と敗戦を振り返る。

 オーストラリアは昨年の世界選手権覇者(日本は9位)。パラリンピックでは北京大会で金メダル、ロンドン大会で銀メダルを獲得しており、高い経験値に基づく世界レベルのバスケをあらためて見せつけられた格好だ。藤本は表情を引き締め、敗戦から得た課題の修正を誓う。

「パラリンピックで戦う相手はこうした強豪ばかり。このままではリオでも強い当たりや速いスピードのなかで自分たちの精彩を欠いてしまう。リオ出場を決めたことはうれしいが、(オーストラリアに)負けた事実をちゃんと受け止めてこの1年を過ごしたい」

 今、日本代表は年に2回程度の海外遠征をこなし、海外チームと対戦して強化を図っている。一方、世界王者のオーストラリアは4年間で300国際試合を組むプランを立てているという。今大会も、来年9月開幕のパラリンピックを想定し、ブラジルに遠征して“リハーサル”をしてから千葉に入った。もちろん、国によって競技環境に差はあるが、及川HCは「世界一になるには、常に世界レベルのトレーニングと戦略の中にいないといけないことが今大会でよく分かった。われわれももっと経験を積んでいきたい」と、リオに向け大いに刺激を受けたようだ。

 リオでは日本のバスケが世界に通用することを証明するつもりだ。及川ジャパンは決意を新たに、リスタートを切る。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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