砲丸投・世界記録保持者の次なる挑戦 リオパラリンピックはやり投で勝負
注目の大学4年生パラアスリート
パラ陸上で注目を集める加藤由希子。砲丸投で世界記録(F46クラス)を持つ大学4年生だ 【写真は共同】
日本では健常者と障がい者の統括競技団体が異なるため、競技会は別々に開かれることが一般的だ。そんななか、健常者の大会にエントリーして強化を図るパラアスリートもいる。加藤もまた、「以前は、健常者の全国大会に“出たい”と思っていたけれど、今はそこで“勝つ”ことが目標」と話しており、より高いレベルに挑戦して、モチベーションを向上させる。
避難所でもひとり続けた練習
高校2年の春、加藤は大きな岐路に直面する。東日本大震災の津波で自宅が流され、避難所生活を余儀なくされた。翌年の全国高校総体(インターハイ)出場を目指していた加藤は、学校から借りた砲丸を避難所に持ち込み、屋外のわずかなスペースでひとり練習を続けたという。だが、体重は一気に10キロ近く減り、インターハイ出場も逃してしまう。「でも、やめきれなかった」と加藤。「この悔しさがバネになって、もともとは考えていなかった進学を決意しました」。大学で競技を続けて強くなる。そう心に誓った。
その大学では、陸上競技部で監督や大学OBのコーチら専門の指導者の指示を仰ぎながら、グライド投法(編注:投げる方向に背を向けた姿勢から投げる方法)のドリルを多く取り入れた練習とウエイトトレーニングに集中。同じ釜の飯を食う仲間たちにも恵まれ、切磋琢磨(せっさたくま)してきた。2学年下の後輩に抜かれて地方大会すら出場できないという敗北感も味わった。だが、ここでもその「悔しさ」が競技者としての自分を強くした。
負けず嫌いな性格もあって、あらためて基礎から体力づくりに取り組み、左手や下半身の自分なりの使い方を徹底的に模索した。その結果、今年5月の東北インカレでは強敵を抑え、12メートル96の自己ベストをマークして優勝。IPC(国際パラリンピック委員会)公認大会ではなかったため、残念ながらパラ陸上の世界記録には認定されなかったのだが、この結果で日本インカレの出場枠を得ることができたのだ。
指のけがの影響で今は調子に波があるものの、「私の中で、13メートルは見えている」とさらなる記録更新に自信をのぞかせる。