砲丸投・世界記録保持者の次なる挑戦 リオパラリンピックはやり投で勝負

荒木美晴/MA SPORTS

やり投でリオを目指す理由

 こうなると、10月の世界選手権(カタール)、そして来年のリオデジャネイロパラリンピックでの活躍に期待が懸かるのだが……。実は、どちらも加藤の障がいのクラスの砲丸投は競技人口の少なさなどから実施されない予定だ。砲丸投と同じく世界ランキング1位の円盤投も実施の見込みはない。そこで、挑戦するのがやり投だ。

やり投での頂点を目指し、肉体改造に取り組んでいる 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 日本インカレの一週間後に行われたジャパンパラ競技大会を終えてから、メインの砲丸投からやり投の練習にシフトしているところである。もっとも、高校まではやり投でも健常者の大会に出場しており、パラ陸上ではやり投の日本記録を保持している。その32メートル83という記録は、今季の世界ランキング5位に相当する。2年前の世界選手権(フランス)では初めての国際大会ながら銅メダルを獲得しており、やり投でも各国のライバルたちからマークされる存在だ。

 ここで加藤に課されるのが、肉体改造である。同じ投てき種目でも、加藤いわく、「やり投はスローで、砲丸投はプッシュ」と動作が異なり、使う筋肉も違う。現在は、最終的な照準をリオに合わせた上で、4キロの鉄球を投げるために作り上げた肉体を、やり投仕様に変えている最中だ。体重を落とし、肩まわりの強化と肩甲骨の可動域を広げるトレーニングに取り組む。かつて痛みのあった右肩は、リオを見据えて昨年2月に手術をしており、回復は順調だ。「世界のトップは40メートル台を出しているので、今の自分の記録では戦えない。今回の世界選手権はリオの前年で出場選手も多いでしょうから、新しい選手に負けないように自己ベスト更新を狙います」と慎重な構えを見せる一方で、「メダルはやっぱり取りたい」と2大会連続表彰台への意欲をのぞかせる。

 得意の砲丸投が世界選手権やパラリンピックで実施されないのは、正直葛藤があるという。だが、「負けず嫌い」「緊張しない」「何事も挑戦するタイプ」と自分を分析するように、持ち前の精神力の強さですべてを受け入れる。

 やり投でも世界の頂点へ――。自分を奮い立たせ投てきに懸ける、若きスローワーから目が離せない。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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