全日本男子が確立し始めたバレースタイル W杯で見えた五輪出場への道しるべ
躍進を支えたシンプルな攻撃
W杯開幕前にチームがコミュニケーションを取る中で、シンプルな攻撃を意識するようになった全日本 【坂本清】
ここ数年、「日本が世界に勝つために」というテーマで語られる際、常とう句のように言われ続けてきたのが「高さのあるブロッカーに背の低い日本人が対抗するためには、速いトスでブロック枚数を減らさなければならない」ということ。いくらトスが速くても、相手ブロッカーがそれ以上に速く移動して、スパイクを待ち構えていればスピードを生かすどころか、ブロックの餌食になることも少なくなかった。しかし高さと勝負するにはスピードが不可欠、という意識は根強く、南部正司監督が指揮を執り始めた1年目の昨シーズンも、セッターの深津英臣(パナソニック)のトスはどちらかと言えば高さよりもスピードを重視するものだった。
だが、W杯開幕前の8月、イタリア、ポーランド遠征の最中、スパイカー陣とコミュニケーションを取る中で、「トスを高くしてほしい」との要望が寄せられた。高く緩やかな軌道にすれば、ブロッカーに追いつかれ、2枚、3枚のブロックがそろってしまうのではないか。当初は戸惑いが先行した。だが、海外遠征で試合を重ねるたび、苦しい場面でスピードを重視してもほとんど決まらないことに気付いた、と深津は言う。
「二段トスはゆっくりでも決まっているんです。パスが乱れたり、苦しい時に無理して速いトスを上げても、そこで合わないとむしろリズムが崩れてしまう。ゆっくり高くトスを上げればリバウンドも取れるし、コースも打ち分けられるし、ブロックに当ててブロックアウトにもできる。(トスを上げるまでの)間がある方が準備もできるし、シンプルな方が良いのかな、と思うようになりました」
伸びやかで、緩やかな高いトスは、2枚、3枚と攻撃がついてもしっかり打ち切る姿が目立った。高さが足りない。パワーが足りないと言われ続けて来たが、たどり着いたシンプルな攻撃は、それを覆すようなスタイル構築を予感させるものでもあった。
五輪出場の鍵は若手の強化策
連日満員の大観衆の中で繰り広げられた試合で得た代えがたい財産を、どう今後に生かしていくかが重要になる 【坂本清】
石川や柳田のサーブが走ればどんな相手にも勝てる、という反面、ジャンプサーブで得点できなかった場合の突破口がない。加えて、相手の攻撃に対する割り切りも事前に対策を練ったパターンがはまった場合はいいが、試合の途中で相手が戦術を変えてきたり、想定外の攻撃を仕掛けられた時の対処が遅れ、修正できないまま終えてしまったのが、今大会で敗れた6試合でもある。
競った場面でしのぎきれない理由として、南部監督は「体力や集中力が低下する」と述べたが、その背景にはそれも「狙い通り」とする相手の巧みな技術がある。米国、イタリア、ポーランド、ロシア、アルゼンチンといった国々は、体力を消耗させ、集中力を切らせるためにキーとなる選手をサーブで狙う。あえてその選手の前から攻撃を仕掛けてブロックに跳ばせる回数を増やす。ラリー中にチャンスボールを返す際も、攻撃参加する選手が次の動きに移りにくい位置へパスを返す。といったプレーを当たり前にこなす。
1本のサーブ、1本のスパイクだけを見れば十分世界に通用しているように見えても、大きな差となって表れたのが、正確な技術の積み重ねによって生み出されるプレーの数々。技術や試合勘は実戦経験が養うものでもある。全日本での活動期間を終えると大学に戻り、同世代の選手たちとの大学リーグを戦う石川や高橋健太郎(筑波大)、山内晶大(愛知学院大)など学生の選手たちの基礎技術力を高めるために、どんな強化方法をとるのか。早々にクリアしなければならない課題であるのは間違いない。
連日満員の大観衆の中で繰り広げられた試合で得られた、胸躍るような高揚感は、代えがたい財産だ。そして5月には、五輪出場を懸けた最終予選に挑む。W杯を「良い経験だった」で終わらせないためには、ここで得られた課題をどう克服していくか。それこそが、2大会ぶりの五輪出場に向けた道しるべになるはずだ。