古都で磨かれる才能、世界に届くか!?=大森将平が日本バンタム級王座V1

城島充

ボクシング界のホープがKO防衛

高校の7期上で世界挑戦の経験もある向井寛史をKOで下して初防衛に成功した日本バンタム級王者・大森将平(写真はことし6月の初防衛戦の会見) 【写真は共同】

 世界チャンピオンを輩出していない京都で今、プロボクシング人気がじわじわと上昇している。16日夜には島津アリーナ京都で2つの日本タイトルマッチが行われ、地元のWOZジムに所属する2人の日本王者がそろって初防衛に成功した。なかでもバンタム級で同級3位の向井寛史(六島)を6ラウンドTKOで下した大森将平は、現在のボクシング界きっての大器として関係者の注目を集めている。すでに世界を視野にとらえているホープはこの夜のリングでまた一つ、成長の糧をつかんだ。

快勝KO劇も「自己採点は30点」

「自己採点は100点中30点です」
 初めて大森のボクシングを目にした人は、その言葉を初防衛に成功した王者の照れや自虐のあらわれと受け止めたかもしれない。
 この日、彼が披露したパフォーマンスの輪郭だけをなぞれば、南京都高(現京都広学館高)ボクシング部の7期先輩で、フライ級で世界挑戦経験もある向井を体格とパワーの差を生かして追いこみ、2度のダウンを奪ったうえでの快勝劇だったからである。

 だが、これまでの14戦全勝のキャリアのなかで22歳のサウスポーが見せてきたしなやかな身のこなしとシャープな拳に驚かされ続けてきた取材者にとっては、30点という自己評価に深くうなづいてしまう。

 初回のゴングが鳴ってからレフリーが試合を止める6ラウンド1分37秒まで、大森の動きはどこか硬く、体にも拳にもいつものスピードが感じられない。挑戦者のディフェンス技術も評価すべきだが、力みからか、大振りのパンチが空を切り、前のめりになりすぎて上半身のバランスを崩すシーンもあった。

魅力ある「スケール感」を出さず…

 なぜか!?
「倒そうとする意識が強すぎた」と本人が振り返るように、この日の大森はまるでブルトーザーのように荒々しく攻め込んだ。それを可能にしたのは、挑戦者との体格とパワーの差である。「フライ級から上がってきた向井選手はパンチがないから、少々被弾しても足を止めて打ち合うファイトプランだった」と陣営の1人が明らかにしたが、それは本来の大森のスタイルではない。

 軽いワンツーを顔面に放ったあと、左ボディをつないでダウンを奪った4ラウンドのシーンは高いポテンシャルを感じさせたが、ダウンを奪ったあとの追撃も彼らしくなかった。本人も「あのボディで立ってきたのは先輩の意地だったんでしょうが、あそこで倒しきらないと、世界レベルでは致命傷になってしまう」と、一番の反省点に挙げた。

「全体的に力んで動きも固かったのですが、あの場面でもパンチのまとめ方が雑になってしまった。あそこで冷静になり、捨てパンチでもう一度ボディをあけさせてからとどめの一撃を打ち込むべきでした」
 これまでの大森のボクシングを見た人の多くはその「スケール感」に、他のボクサーにはない魅力を感じたはずだ。その魅力を演出していたのは、スピードとタイミング、そして絶妙な距離感である。あえてそのスタイルを捨てて戦ったこの日、収穫は「30点」という自己評価のなかで完勝したことと、はがゆさのなかでも「成長するための試合を先輩にさせてもらった」と、反省点をさらなる高みにたどりつくための糧として心に刻んだことではないか。

今後へ期待感を抱かせてくれる才能

 日本ボクシングコミッションが公認する世界タイトルの統括組織が4団体になり、世界王者という肩書きだけでは高い評価を得られにくくなった。どんなボクシングスタイルを磨き、強い相手とどんな試合をするのか。ファンが最も注目するその一点の関心において、すでに3団体でランキング入りしている大森将平のボクシングは現役の世界王者と比肩するほどの大きな期待を抱かせてくれる。京都で育まれた才能がどのような形で広く知られていくのか、この日のダブルタイトル戦は毎日放送が深夜枠で放映したが、そのプロセスもまた、彼のサクセスストーリーにとって重要な要素になる。

 次戦は12月、この日ライト級の王座を劇的な最終ラウンド逆転KOで守った徳永幸大とともに同じ京都のリングにあがる。「成長するための試合」を経た希有な才能がどんなボクシングを披露するのか。1人でも多くの人に、その魅力にふれてほしいと思う。
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著者プロフィール

関西大学文学部仏文学科卒業。産経新聞社会部で司法キャップなどを歴任、小児医療連載「失われた命」でアップジョン医学記事賞、「武蔵野のローレライ」で文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞を受賞、2001年からフリーに。主な著書に卓球界の巨星・荻村伊智朗の生涯を追った『ピンポンさん』(角川文庫)、『拳の漂流』(講談社、ミズノスポーツライター最優秀賞、咲くやこの花賞受賞)、『にいちゃんのランドセル』(講談社)など

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