バスケ新リーグへの試金石となった2試合 「DREAM GAMES」で見えたこと

舟山緑

ディフェンス力で秋田に大勝したトヨタ

ディフェンス力と個人技で秋田(白)を寄せ付けなかったトヨタ(緑)が98−66の大勝を収めた 【松岡健三郎】

 アイシンvs.浜松に先立って行われたトヨタvs.秋田の一戦。昨シーズンの準優勝チーム同士の対決は、序盤こそ一進一退だったが、トヨタのプレッシャー・ディフェンスの前に秋田が苦戦。トヨタは、新加入のリチャード・ソロモンをスタートに据え、攻守の要ジェフ・ギブス、天性のセンスを見せるマイケル・パーカーらをうまく回しながら、きっちりと得点。日本代表の田中大貴や松井啓十郎らを軸に、日本人選手も1対1の強さを見せつけて98−66と秋田を寄せ付けなかった。トヨタのディフェンスと個人技が光る一戦だった。

 今季から指揮を執る伊藤拓摩HCは「この歴史的な試合で自分たちのやるべきプレーをして勝てた」と笑顔を見せ、「今季はバックコートにこだわっている。去年まではフロントコートでしっかりプレーするスタイルだったが、今季は前から激しく当たり、オフェンスでは走って走って走り切る新しいスタイルを追求している」と勝因を語った。現時点では「そのフレームワークがようやくできた段階。細かい部分のツメはこれから」だと言う。

 トランジションの速い展開から3ポイントを武器としている秋田だったが、長谷川誠HCは「自分たちのバスケットができなかった。相手のプレスに対してガードがボールを運べず、インサイドに対するディフェンスもできなかった。その結果がオフェンスの崩れにもつながった」と、敗因を挙げた。長谷川誠HCは言い訳にしなかったが、新加入の外国籍選手が一人まだ来日していないのも、選手交代の部分で苦しかった要因と言える。

 今年、日本代表候補にも選ばれた秋田のガード田口成浩は「気持ちで負けないよう出だしからハードにいこうと臨んだが、(相手のプレスに)引いてしまい、アタックできない弱さ、失敗を怖れて向かっていけない場面があり、そこからミスが出た」と、自分たちのバスケットができなかった要因を語った。

新リーグへ向けて見えてきた課題と収穫

「2戦ともに勝負どころで日本人選手の差がハッキリと出ていた」日本代表の長谷川HCはコメントした 【松岡健三郎】

 JBAが2つのリーグとタッグを組んで実現したこの「DREAM GAMES」。勝負は、いずれもNBLの勝利で終わった。秋田の長谷川誠HCに両リーグの違いについて尋ねると、「日本人選手も外国籍選手もトヨタの方が全然上。『bjリーグが上』だなんて思ってもいない。来季は同じ舞台で戦うわけだから、もっとレベルを上げていかないと本当に厳しくなる」という言葉が返ってきた。実に率直な感想だった。

 この2試合で浮き彫りになったのは、ディフェンス力と日本人選手の個人技の差だったように思う。観戦した日本代表の長谷川健志HCに、見えてきた課題を聞いてみた。

「日本人同士の力の差があるのが分かったと思う。それは対戦してみないと分からないこと。2戦ともに勝負どころで日本人選手の差がハッキリと出ていた。そこを今後、bjリーグの各チームがどうアップさせていくのか考えなくてはいけない。また、ディフェンス力もNBLチームの方が上だった。bjのチームは、来季へ向けて先取りでディフェンス強化に取り組むことが、結局は大きな成果につながるのではないかと思う」(長谷川健HC)

 敗れた秋田も浜松もまだ合流していない外国籍選手がいるなど、不利な点もあった。両チームの実力はこれからシーズンを戦う中で強化されアップしていくはずだ。悔しい負けを喫した秋田の田口は、最後にしっかりとリベンジを誓ってくれた。「ここを自分たちの原点として、来季に向けてどこまで成長できるかだと思います。今は、『次はやってやるから、本当に見とけよ!』という気持ちです」

 この日、会場にはそれぞれのチームのファンとブースターが大勢駆けつけた。そろいのTシャツに身を包み、熱い声援を送り続けて、その熱気で会場はまさにヒートアップしていた。大会のもうひとつの収穫といえば、これらの観客が、今まで見る機会がなかったNBLチームを観戦し、またbjリーグの奮闘を肌で感じたことだろう。中継されたテレビを通しても同様のことが言える。16年秋に開幕する新リーグの成功は、いかに多くのバスケファンを獲得していけるかに大きく懸かっている。その点では、地域密着をリーグ創設時から掲げてきたbjリーグチームが一歩、先んじていると言えよう。トヨタの田中大貴がそのことについて語ってくれた。

「多くの観客を動員している点では、bjリーグから学ぶことが多いはず。新リーグになってもレベルの高い良い試合をしなければ注目もされないし、試合を観に来たいと思ってもらえなくなる。統一リーグを実現してくださったのは川淵(三郎)会長はじめ多くの関係者の力だが、どれだけ面白い試合を見せることができるか、それは選手の責任でもあると思っています」

 最後に、こんな選手の声も拾ったことを付記しておきたい。トヨタの正中岳城が語ってくれた言葉だ。「新リーグへの期待が高まっているが、越えなくてはいけない問題はスタートしてからも続いていくと思う。固まりつつ形の中に、選手の声を吸い上げてもらえれば、さらにデザインされていくのではないかと思う。そんな場が与えられるようにと願っています」

 この10カ月余り、日本バスケットボール界は想像を超えたスピードで問題に立ち向かい、「新たな1つのプロリーグ」という理想を誕生させた。今回の「DREAM GAMES」は、その仮舞台に両リーグのチームと観客という“役者たち”がそろい、「来季はこんなガチンコ勝負をお見せしますよ!」と強くアピールする絶好の機会だった。舞台裏には、JBA、NBL、bjリーグの関係者たちが一堂に会していたはずだ。今後、新リーグを充実させ加速させていくためにも、日本の未来を背負っていく選手たちの声は絶対に欠かせないものとなるはずだ。

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著者プロフィール

月刊バスケットボールで12年にわたりミニバスから中学、高校、大学、トップリーグ、日本代表まで幅広く取材。その後、フリーランスとなる。現在はWEBを中心にバスケットの取材・執筆を続けている。ほかに教育分野での企画・編集なども手がけている

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