浦和との差別化から生まれた大宮スタイル J2・J3漫遊記 大宮アルディージャ

宇都宮徹壱

なぜ地元出身の選手が多いのか?

大宮が指導者を派遣している『さいたまシティノース』の子どもたち。後列中央にいるのが佐藤コーチ 【宇都宮徹壱】

 地道なホームタウン活動と並んでもうひとつ、浦和が未開拓だった分野で大宮は実績を残している。去る7月21日、Jリーグは「都道府県別出身者数とチーム別地元出身者の所属人数」を公式ホームページで発表。このうち「チーム別地元出身者の所属人数」で最多だったのは、16名の大宮であった。ちなみに浦和は6名で17位。大宮は浦和に比べて、地元出身の選手が圧倒的に多いということだ。この差が何に起因しているかといえば、クラブと地元少年団との関係性である。再び、清雲の言葉に耳を傾けることにしたい。

「少年団との関係性に関しては、大宮にはアドバンテージがありました。NTT関東の時代から、定期的に地域の子どもたちを集めて大会やスクールを行っていたんです。その先頭に立っていたのが、現役時代にNTT関東でプレーして、大宮で指導者となった佐々木則夫(現日本女子代表監督)です。浦和はそこがなかなかうまくいっていなかったようで、ジュニアチームができたのも最近ですよね(編注:13年から)。でも大宮は、もっと前(同:07年)からスタートしています」

 浦和の事情について補足しておく。前出の豊田によれば、浦和は戦前から学校教育とセットになった形でのサッカーが盛んな土地柄であり、浦和レッズがやって来るはるか以前より少年団の伝統がしっかりと根付いていたという。その後Jクラブができたとき、浦和のサッカー少年団関係者がまず抱いたのが「自分たちが築き上げた伝統が壊されるのではないか」という警戒心であった。もちろん、こうした話は他の地域でもよく耳にする。ただ浦和の場合、あまりにも少年サッカーの伝統が強過ぎたことが、クラブの育成・普及の戦略を遅らせることになるという、皮肉な現象を生じさせることとなった。

 大宮が指導者を派遣している、サッカー少年団の選抜チームを訪ねてみた。大宮、与野、岩槻(つまり浦和以外)にある近隣32の少年団からセレクトされた『さいたまシティノースFC』は、今年2月に立ち上がったばかりで、メンバーは小学4年生から6年生まで21名。週4回の練習と試合には、大宮の育成スタッフが指導にあたる。クラブのU−12コーチを兼任する佐藤勝彦は、自身の役割と少年団との関係性について、こう説明してくれた。

「私のミッションは、地域とのパイプ役ですね。このさいたまシティノースFCから、ウチのジュニアユースにつながっていけばハッピーです。今のところ、推薦したい子はいます。セレクションに呼ぶか、それともトレーニングに参加させるかについてはクラブのスタッフと相談です。少年団の指導者も、良い選手がいたらウチに送り出そうとしてくれる。こういう関係性は、全国的にも珍しいようですね。Jリーグの方も『4種(小学生年代)で、これだけ地域と良い関係を築けているクラブは知らない』とおっしゃっていました」

ライト層を呼び込むゴール裏の温かさ

オレンジ一色のゴール裏。大宮のサポーターはライト層に対して比較的寛容と言われている 【宇都宮徹壱】

 最後に紹介するのは、クラブ関係者ではなくサポーターである。NACK5スタジアム大宮のゴール裏は、埼玉スタジアムのそれと比べて間口が広く、それゆえライトなファンが入りやすいという。さっそく当事者に話を聞こうとアポイントがとれたのは、美容ライターとして活躍する軽部幸菜。職場に近い喫茶店に現れた彼女は、一見するとゴール裏の住民とは思えないくらい、正統派美人OLといった風情である。しかし言葉の端々からは、サッカーへの激しい情熱とクラブへの深い愛情が伝わってきた。

「初めてNACK5スタジアム大宮に行ったのは4年前ですね。ちょっと仕事で行き詰まりを感じていたときに、たまたまサッカー好きの幼なじみが誘ってくれたんです。『アルディージャ? レッズじゃなくて?』と思っていたんですけれど、いきなりゴール裏デビューしてしまって(笑)。最初はちょっと怖いかなと思ったし、コールやチャントも知らなかったんですけれど、気が付くとその場になじんでいましたね」

 2回目以降は、何のためらいもなくゴール裏に向かうようになっていた。彼女の生活圏は大宮ではなく東京だが、SNSを通じてすぐにゴール裏の仲間が増えたという。家族とも職場の人間関係とも違う、喜怒哀楽を共有できる仲間と出会うことができたのは、軽部自身にとっても新鮮な驚きだったようだ。そんな彼女に、大宮のサポーター気質について尋ねると、すぐさま「温かさ」という答えが返ってきた。

「新しい人を温かく迎えてくれること。それと、親のような気分で応援しているところですかね。いつも残留争いをしているアルディージャだけれど、それだけに『自分が応援しなきゃ!』って感じになるんですよ(笑)。もう少し、レッズのような熱さや厳しさがあった方がいいっていう意見もあるみたいですけれど、私はこういう温かさや寛容さって、もっと大切にしてほしいと思いますね」

 念のため申し上げると、ここで浦和のゴール裏の流儀を否定するつもりは毛頭ない。ただ、埼玉スタジアム2002の敷居の高さを敬遠する人は一定数いるわけで、そうした層を大宮が取り入れていった経緯については深い関心を覚える。Jリーグ加盟当初、何もないところから地道なホームタウン活動を続け、地元の少年団とのつながりを大切にすることで、独自の地域密着のスタイルを確立した大宮。実はそれだけでなく、クラブ側がコアサポーターとの話し合いやマナーアップの啓発を積極的に行うことで「温かく」「敷居の低い」ライト層を受け入れるゴール裏の空気が醸成された。これにより、浦和とのすみ分けはさらに明確化されたと言えよう。

 かつて清雲が思い描いた「共存」というテーマは、今のところ浦和に対しては実現しているように感じる。一方、他競技との共存については、いずれ大宮が総合型スポーツクラブへの転身を具体化することで見えてくるだろう(実際、クラブはそうしたビジョンを持っている)。その意味で、大宮アルディージャの試みはまだ道半ばである。かつての「野球の街」で誕生したJクラブは、今後もさらなる成長と変化を見せてくれそうだ。

<この稿、了。文中敬称略>

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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