ペップとの別れを示唆するバイエルン 補強戦略で浮き彫りになった“ずれ”
ビダル獲得はクラブ主導か
ビダル(赤)の獲得はグアルディオラ監督が望んだものではなかった 【写真:ロイター/アフロ】
「これがうまく運べば、すべてはうまく回る。だが、もし最初からこれまで同様の結果を出すことができなかったら、ファンは監督に向かって、シュバインシュタイガーの名をストレートにぶつけることになるだろう」
ブンデスリーガのエキスパートであり、元バイエルン監督のオットマー・ヒッツフェルト氏は、「チーム内にドイツ人選手が14人しかいないのでは、アイデンティティーは失われていくだろう」とすでに警告を発している。シュバインシュタイガーの前にトニ・クロースが国外(レアル・マドリー)へとプレーの場を移している。ドイツ代表の主力であるマルコ・ロイスとマッツ・フンメルスは、ライバルのボルシア・ドルトムントの選手だ。“ドイツの”雄という看板に、変化が出てきているのは事実である。
シュバインシュタイガーが去った代わりに、中盤にはユベントスからアルトゥーロ・ビダルがやって来たが、本来ならば必要のなかった補強ではある。ビダルについて「シュバインシュタイガーや、かつてのマルク・ファン・ボメルやシュテファン・エッフェンベルク、ローター・マテウスのようなアグレッシブなリーダーだ」とファルク記者は語る。だが、「ビダルはグアルディオラが強く希望した選手ではなかったんだ」と説く。むしろ、ウイングやサイドバックのポジションを強化する方が、より望まれていた。
もちろん、ビダルはバイエルンのプレーを変えていくことだろう。彼らのサッカーは、さらに攻撃的なものになっていくはずだ。図で書き記せるようなはっきりした布陣が用意されているわけではないが、グアルディオラはビダルをインターセプターとして中盤に配置しながら、3バックへとシステムを発展させていこうとしている。だが、「ビダルの獲得はグアルディオラ時代の終焉(しゅうえん)のスタートになるかもしれない」とクラブ関係者が話しているのも事実。イタリアからやって来た新戦力は、明らかにクラブが欲した補強であり、指揮官が望んだものではないのだ。
評価されないことへの落胆
残り1年となった契約をグアルディオラが延長すると考えている人は多くない 【写真:ロイター/アフロ】
「2年前にグアルディオラがバイエルンの監督に就任した時、基盤となるものを見いだしていた。そうしたものの上に、彼は自身の哲学を具現化させていくことができたんだ。このクラブにいる時間が長くなるほど、その哲学を発展させていく可能性は小さくなっていく」
グアルディオラ自身、ビダル獲得という補強戦略にははっきりと距離を置いており、自身は「クラブにアドバイスを与えただけだった」と話している。加えてミュラーにも売却の可能性があった。ただし、これはクラブが拒否した。この事実もまた「クラブが補強の権力を自身から遠ざけていることに、グアルディオラはすでに気付いている」(ファルク記者)ことを暗示する。
話はここで終わらない。グアルディオラはまた、これまで自身がもたらした国内タイトル――2度のリーグ優勝と1度のドイツカップ優勝――が十分に評価されていないことに落胆を覚えている。ドイツ国内のみならず、ミュンヘンでも評価の度合いは変わらないのだ。もちろん本人もCL優勝を狙っている。「もしグアルディオラが単に良い監督としてではなく、バイエルン史上でも傑出した指揮官になりたいのならば、少なくともCL決勝に進出しなければならないだろう」とファルク記者は語る。そうなったならば、その後はどんな展開が待っているのだろうか?
「4年目へと入ったことは、私にとって最大の過ちだった」。バルセロナ監督時代をグアルディオラはそう振り返っている。スペイン人指揮官が今回すでに過ちのにおいをかぎ取っており、しっかりと危険を避けることができるかは非常に疑わしい。いずれにせよ、早期の決断はしないはずだ。少なくとも、オクトーバーフェストまでは決断を口にすることはないだろう。
「なぜ監督はいまだにためらっているのだろう。悩む理由などまったくないのに。考えられるとすれば、選択肢をオープンな状態にしておいて、今後生まれてくる動向を吟味したいのかもしれない」。ファルク記者は脳内で幻惑されていく。まるでバイエルンの対戦相手が、哲人監督の戦術に絡め取られていくように。
(翻訳:杉山孝)