結果も左右するチームのイメージ戦略=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(3)
型破りな指導をする監督・黒木竜次が主人公の高校野球漫画『クロカン』を通じて、高校野球の現実(リアル)を考える短期集中連載の第3回のテーマは、結果をも左右する甲子園でのイメージ戦略にスポットを当てる。
クロカンが行ったイメージ戦略
『クロカン』第20巻10話「心理戦」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】
『クロカン』第20巻10話「心理戦」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】
150キロ右腕・坂本拓也にお金を払っていることが明るみに出た際には、マスコミ各社にFAXを送り、坂本の家庭事情を説明。監督自ら選手を経済的支援するという美談にすり替えた。その際には、マスコミ陣の前で実際に坂本の投球を披露。すごさを見せつけ、文句を言えないように封じた。
「あいつの将来を拓いてやる」
「誰かがやらなきゃならねえなら、俺がやる」
そんなクロカンの言葉を聞いたマスコミは批判するどころか、応援する側に回った。
それだけではない。新聞記者を通じて、甲子園優勝4度の強豪・京陽高校との練習試合を実現させてマスコミを集めると、その試合で坂本が21連続奪三振の離れ業。その時点では公式戦未勝利ながら“剛腕・坂本のいるチーム”として、全国的な注目を集めることに成功した。これによって、ただの山奥の田舎チームにすぎなかった鷲ノ森高校は一気にブランド化。部員9人のチームに、翌春には東京の硬式野球出身の有望選手が入学することにつながった。春の地区予選の初戦からプロ野球全球団のスカウトが集結し、スタンドには満員の観客。すべてはマスコミを通じたクロカンの戦略通りに事が進んだ結果だった。
坂本の卒業後、センバツに出場したときはこんな手を使った。町に用意させた150キロのバッティングマシンをマスコミに披露。スピードは「145キロ」に設定していると言った上で、マスコミを締め出し、室内練習場で打撃練習を行った。実際に打っていたのは130キロの球だったが、室内から響く金属音を聞いたマスコミは「145キロに設定された高速マシンを軽々と打ち返すクリーンアップのパワーは他の出場校の脅威となるでしょう」と報道。「鷲ノ森打線=強打」のイメージを植えつけたのだ。