2年前の悔しさが現在への原動力に 萩原智子が見た渡部香生子の成長

萩原智子

「やる気スイッチ」を見つけ出す

日本選手権では4冠を達成。複数種目にチャレンジにするには、切り替えのうまさが必要となる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 強さの秘密は、「やる気スイッチ」も関係する。精神的にムラのあった時期は、練習での工夫によってコントロールしていた。「香生子には、やる気スイッチがあるんです。スイッチが入った時の集中力はすごいです。そのスイッチをどう入れるかが大事ですから。練習に集中していないな、やる気がないな、と分かったときは、練習を変更します。このタイムで来れたら、練習終わりって。一気にスイッチが入りますよ(笑)」と竹村コーチが笑って話してくれたことがあった。

 はじめは、指導者に押してもらっていたスイッチも、今は彼女自身で探し出し、押せるようになってきたように感じる。苦しい展開の中でも、冷静に勝負所を見極め、「スイッチ」を押す。

 五輪で金メダルを4つ獲得している北島康介選手(日本コカ・コーラ)は、練習でも試合でも、「スイッチ」を自分自身でコントロールできる選手だ。トップ選手になればなるほど、そして複数種目にチャレンジするほど、自己コントロール術がポイントになる。

 それは、オンとオフの切り替えが上手とも言える。だからこそ、今年の日本選手権で渡部選手が4冠を達成し、そして今大会100メートル平泳ぎとレースの重なる山場でも、200メートル個人メドレーで銀メダル獲得につながった。

大一番は6日の200m平泳ぎ

2年前と比べて肉体的にも成長。特に首が強くなった印象がある 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 肉体的にも大きく成長している。2年前の彼女と比べてみると一目瞭然。継続的な体幹トレーニングによって、全身にバランス良く筋肉がついた。そして何よりも、首〜肩が太くなった。水中を頭から前に進んでいく際、頭がぐらつくと姿勢も悪くなり、フォームが崩れ、抵抗を受けてしまう。特に疲れが出てくるレース後半は、特にだ。スイマーにとって、頭と体をつなぐ首が強くなるのは大事な要素となる。

 彼女には、今大会最大の大一番が近づいている。競泳5日目(8月6日)から予選が始まる、女子200メートル平泳ぎだ。今季世界ランキング1位として挑むレースになる。金メダルを獲得し、リオデジャネイロ五輪の内定も目指したいと公言している。

 女子200メートル個人メドレーを日本記録で銀メダル獲得したことによって、気持ち良く勢いに乗ってチャレンジできるだろう。五輪の前年に、ライバルたちに強烈なインパクトを与えておくことは重要だ。

五輪の戦いは既に始まっている

 渡部選手が出場した200メートル個人メドレーで、世界新記録をマークし、金メダルに輝いたハンガリーのカティンカ・ホッスー選手は「鉄の女」の異名を持つ。200メートル個人メドレー決勝当日は、渡部選手と同じように、他種目にも出場していた。100メートル背泳ぎ予選は全体の1位で準決勝へ進出。しかしその準決勝には姿を現さなかった。調子は良かったはずだ。しかしホッスー選手は、個人メドレー1本に絞ってきたのだ。

 もちろん世界記録更新へ向けての勇気ある撤退であるかもしれない。しかしホッスー選手は、これまでも複数種目に出場してきた「鉄の女」だ。そんな中、渡部選手は出場種目を回避することなくチャレンジした。この積極的に攻める姿勢は、今後、大きな財産となる。そして、ライバルに対しても複数種目で戦える強さを持っている「日本の渡部香生子」という印象は強くなったはずだ。

 五輪での戦いは、既に始まっている。泳ぐたびに速く強くなっている彼女が、得意の200メートル平泳ぎで、世界のライバルたちにどんな泳ぎを見せつけるのか、楽しみでならない。

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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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