“ラガーさん”が選ぶ夏の甲子園名勝負 スタンドで感じた高校野球の魅力
怒涛の反撃を見せた日本文理
すでに夏の甲子園に向けて全日程の通し券も購入したラガーさん。今年もバックネット裏から球児たちに熱い視線を送る 【スポーツナビ】
09年夏の中京大中京(愛知)と日本文理(新潟)の試合ですね。この試合は正直に言って序盤は盛り上がりに欠けて、2対2の同点ではあったんですが、何か今ひとつ物足りない展開でした。中盤に中京大中京の打線が爆発して、10対4と大差のリードで最終回、日本文理の攻撃に入りました。ただ、2アウトからでしたね。
――そこから始まった怒涛の攻撃ですね。
日本文理の攻撃が始まって、異様な雰囲気でした。1点、2点と入るうちに「もしかして」と観客も思い始めるんです。4人目の吉田雅俊が打ち上げた三塁へのファウルフライをサードの河合完治が落球しちゃいましたね。あの年の中京大中京は守備が良かったんですが、追い詰められると、そんなことも起きてしまうんです。なおも打線が続いてエースだった堂林翔太(現・広島)はノックアウト。最後は1点差に追い上げられて、若林尚希の打球は痛烈なサード正面へのライナー。紙一重でしたね。あまりに打球が速かったせいで、抜けたのか、キャッチしたのか、最初は分かりませんでした。
――終了後の選手たちの様子は?
マウンドを降ろされた堂林は優勝したにもかかわらず、閉会式でも泣いていましたね。悔しかったんでしょう。不思議な感じで勝った中京大中京の方が負けたようなチームみたいで、負けた日本文理が勝ったような感じでした。ただ、少し時間が経つと中京の選手は落ち着いた表情になって「ああ逃げ切れた、優勝できたんだ」という感じでしたね。
延長15回終了時は意外な様子に……
06年の決勝再試合、スタンドは大勢の観客で埋め尽くされた 【写真は共同】
そうですね。やっぱり06年夏、早稲田実業(西東京)と駒大苫小牧の決勝戦ですね。個人的な思いを言うと、田中将大は2年の夏の方がすごかったんですよ。3年は150キロが出ず、全部140キロ台。斎藤佑樹の方が春から見ていたんだけど、春は140キロくらいしか出ていなかったのが、150キロ、151キロと球速が出るようになっていた。とにかく驚きましたね。
――延長15回引き分け再試合になった試合はどうでしたか?
あの試合は駒大苫小牧が先制したんですよね。三木悠也のホームラン、ただすぐに早実も追いつく。そこからは田中将大と斎藤佑樹の投げ合い。ただ、延長15回を終えて再試合になった瞬間って意外と盛り上がらないんです。
バックネット裏で見ていると、「あー、終わっちゃった」っていう感じ。球場中がざわめくイメージがあるんだけど、まったくの逆。白けた感じになっちゃうんですよ。大きな歓声を出す人もいないし、立って拍手をするくらい。結構落ち着いている感じでした。
――再試合はどうでしたか?
試合前のムードはずっと見ているけど、過去の決勝戦と比べてもすごかった。チケット売り場の行列が高速道路の高架下を過ぎて、甲子園駅の方まで続いているんです。たぶん発売開始も早めていたと思います。甲子園期間中はテレビとか見ていないので、後から知ったんですが、東京では斎藤もすごい人気でしたからね。
試合は4対1で早実が先行して、9回まで行きましたね。ただ、最終回がすごかった。中澤竜也が2ランを打って1点差、最後は田中に回ってくるんだから、持っているんでしょうね。最後は空振り三振で、神様が与えたというわけではないけど、プロ野球や大学野球ではこんなこと起きないですよね。
――最後に、なぜ高校野球を見続けているんですか?
甲子園という素晴らしい球場で、夏は3年間の総仕上げとして、素晴らしい試合を見られる。見ている方も一生懸命観戦していると、観客も感動をもらえます。ただ、個人的にはハマっているのが当たり前だから、もう分からなくなっちゃいましたね(笑)。
(取材・文:石橋達之/スポーツナビ)