カシージャスとメッシを追いつめたもの 理不尽な批判と失って気付くその偉大さ

レアル・マドリーに別れを告げたカシージャス

カシージャスは15年間もゴールマウスを守り続けてきたレアル・マドリーに別れを告げた 【写真:ロイター/アフロ】

 現地時間12日、イケル・カシージャスが15年間もゴールマウスを守り続けてきたレアル・マドリーに別れを告げた。その傍ら、昨年のワールドカップ(W杯)に続いて準優勝に終わったコパ・アメリカ後にアルゼンチン国内で厳しい批判を受けたリオネル・メッシは、しばらく代表から距離を置くことを検討し始めている。

 彼らが置かれている状況はいずれも理不尽なものだ。カシージャスが退団を決意するに至った要因は、プレーの善し悪し以上にピッチの外にあった。一方、メッシのそれはアルゼンチンフットボール協会(AFA)の強化方針の欠如や代表チームのプレーシステムに対する不満が何年も蓄積されてきた結果であり、その大半はフットボールの内容に関わるものだ。

すべてを勝ち獲るも、近年は批判が続く

退団セレモニーではこれまで勝ち獲ってきた多くのトロフィーに囲まれた 【写真:ロイター/アフロ】

 カシージャスが正GKとして定着して以降、レアル・マドリーのゴールマウスは極めて安定した状況が続いてきた。その間彼はクラブレベルだけでなく、スペイン代表のキャプテンとしてユーロ(欧州選手権)とW杯のトロフィーを掲げる名誉まで授かっている。世界最高のGKとしての称号を得ただけでなく、クラブと代表の双方ですべてを勝ち獲った後も長年にわたってその地位を保ち続けるのは簡単なことではない。

 だが彼が築いてきた輝かしいキャリアも、これまで実現してきた偉大なるセーブの数々もすべて、一部のマドリディスタ(レアル・マドリーのサポーター)たちにとっては永遠の記憶とはなり得なかった。ジョゼ・モウリーニョがサンティアゴ・ベルナベウのロッカールームにやって来たというだけで、それらの功績はすべて人々の脳裏から消えてしまったのだ。そして自身の好守によってレアル・マドリーに無数の勝利をもたらしてきたカシージャスは、まるで経験が浅い役立たずの選手であるかのように、不当な批判を浴びる対象に成り下がってしまった。

 有名なテレビレポーターを恋人に持つこともあり、カシージャスはチームの内情をメディアにリークする“スパイ”であるとモウリーニョから疑われていた。その影響により、彼はボールを持つたびにモウリーニョ支持派の一部ファンからブーイングを受けるようになった。その状況は2年前にモウリーニョがクラブを去った後も変わることなく、遂には何人かのチームメートとの関係まで悪化させる事態までもたらした。

 2、3年前から退団のうわさが絶えなかったカシージャスは、この夏とうとう移籍することを決意した(それにしても、新天地がモウリーニョの古巣であるポルトになるとは皮肉な話である)。同時にレアル・マドリーは、2000年以降初めてゴールマウスの守護者を変えることになる。だが新たに正GKを務める選手にとって、これだけの功績を残してきた前任者の後を継ぐのは簡単ではない。一方、クラブを去ったイケルは今後ようやく相応しい評価を受けることになるだろう。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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