未来のエース候補・高橋光成の課題 「お祭り」が飛躍への引き金となるか

中島大輔

精神面に課題、緊張から力んで大学生に被弾

同じ群馬県出身の渡辺SD(右)から高い期待を寄せられている高橋(写真は昨年10月のドラフト指名あいさつ) 【写真は共同】

 実は入団してから、潮崎2軍監督が高橋について心配していることがある。前橋育英高校時代に指導した荒井直樹監督が、「光成は割とのんびりというか、田舎の子という感じ」という精神面だ。潮崎2軍監督はこう見ている。

「ずっと4番を打って、エースで、ピッチャーはひとりでという感じでやってきたみたいだから、もっとやんちゃしている人間かなって思っていた。でも、全然そんなことなくてね。ピッチャーってデッドボールを当てても『知るか、そんなもん』っていうくらい、やんちゃでもいいのかなっていう気はします。ただ光成の場合、それも能力で乗り越えていくんだろうなとも思いますけどね」

 普段は静かな性格でも、マウンドに登れば人が変わる投手はたくさんいる。高橋はどうだろうか。潮崎2軍監督は「まだそんなに難しいシーンを迎えてないから、なんとも言えない」と話している。

 その意味で、興味深い試合が6月29日に行われた。侍ジャパン大学代表対NPB選抜戦だ。高橋はプロ代表として6回からマウンドに上がると、青山学院大の吉田正尚にライトスタンドまで運ばれた。直後にこぼした苦笑いについて、「力んで自分の球が投げられなかった」と説明している。

 対峙(たいじ)した打者5人に対し、選択したのはストレート中心の投球だった。
「大学生相手に試せる場面ではなかったので、自信のある真っすぐでいきました」

 おそらく「プロとして打たれてはいけない」という気持ちが緊張感につながり、それが結果としてホームランに至ったのだろう。コメントから読み解く限り、気持ちを制御できていたとはとても言えない。

「お祭り」楽しめれば1軍デビュー近いか

 現在、高橋が抱える最大の課題は、メンタルコントロールだ。7月10日のイースタンリーグ巨人戦で先発すると、5回を投げて被安打8、4与四球、4失点(自責は2)で負け投手になった。その前に登板した6月23日の東京ヤクルト戦では同じく5回を投げて被安打2、無失点で勝ち投手になったものの、4つの四死球を献上している。

 この原因について、潮崎2軍監督はこう指摘する。

「常に全力で投げちゃうから、イニングが進むにつれて疲労がたまり、バテていく。それがスタミナの問題ではなくて、序盤に真面目に投げすぎるから。先発なら、適度に手を抜くことも必要ですね」

 真面目ゆえの全力投球、緊張状態に対し、どう付き合っていくのか。今後、高橋が高いポテンシャルを存分に発揮するには、これらの点をクリアすることが不可欠になる。

 その意味で、倉敷マスカットスタジアムで行われるフレッシュオールスターは試金石となる舞台だ。「お祭り」を楽しんで持てる力を披露するか、次代のプロ野球を担う相手に負けられまいと力んでしまうのか。

 未来のスターを生んできたフレッシュオールスターが、飛躍への引き金となるケースは過去に何度もあった。そうした試合で前者の高橋が出たら、1軍デビューも近いかもしれない。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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