若手が活躍も男子バレーの気になる温度差 チーム内への目配りは十分か?

米虫紀子

連携や一体感の不足を感じる場面も

良い時と悪い時の差が激しく、立て直せないもろさを見せるという課題も見えた 【坂本清】

 若手とベテランの融合をテーマに掲げている今年の全日本だが、京都大会でフランスから1セットも奪えず、なすすべなく連敗するなど、ここまでは良い時と悪い時の差が激しい。相手にプレッシャーをかけられて一度流れを失うと、立て直せないもろさがある。若手選手が多いゆえの経験や技術不足もあるのだろうが、チーム内に温度差があり、一体感が不足していることが一因のように見える。

 4月に始動し合宿を重ねてきた他チームに比べ、全日本は本格的にスタートしたのが5月中旬と遅れを取った。ワールドカップが8月22日(女子)に開幕するなど、国際大会の日程が以前より前倒しになっていることを考慮し、女子の代表選手は5月初旬の黒鷲旗に出場せず、4月から合宿を続けてきた。一方の男子は、全日本、日本バレーボール協会とVリーグ各チームの連携がうまくいかず、代表選手も黒鷲旗に出場した。4月に一部の選手で合宿を行い、黒鷲旗の大会中はいったん中断。ワールドリーグ開幕の約2週間前に再集合したが、選手によって集合日程がバラバラだった。しかも黒鷲旗で一度ピークを作った選手たちのコンディションは良くなかった。

 新たなスタッフ構成もまだなじんでいない。今年は、菅野幸一郎コーチと、イラン出身のアーマツ・マサジェディ(アマド)アドバイザーコーチが新たに加わった。アマドコーチは、ジュリオ・ベラスコ現アルゼンチン代表監督が、イランの指揮を執り急成長させた時期に、2年間コーチとしてその手腕を学んだ。南部正司監督はアマドコーチに全幅の信頼を置き、ウォーミングアップから練習メニューの作成、技術指導、トレーニングに至るまで、ほとんどすべてを任せた。それにより、他のコーチやトレーナーとの役割分担があいまいになった。次第に改善されているものの、適材適所にスタッフをマネジメントするのは監督の役割だ。

 ベラスコ仕込みのアマドコーチの指導により、リバウンドを取る技術やブロック、気持ちの持ち方など、選手が得たものは多い。一方で、レセプションのステップから見直したり、これまでやってきたことを頭ごなしに否定されることへのフラストレーションもある。

危機感と熱意をチームの内側へ

南部監督には危機感と熱意をチームの内側へ向けてほしい 【坂本清】

 若手の育成強化が急務なのは確かだが、来年のリオデジャネイロ五輪を目指す上では、ベテラン選手のケアや意思疎通も欠かせない。

 南部監督は今年、期待の若手、石川、柳田、山内、高橋健太郎(筑波大)の4人を“NEXT4”と名付けて売り出すなど、話題作りに熱心だ。しかし外ばかり見て、チーム内への目配りが疎かになってはいないか。「NEXT4、NEXT4になり過ぎているのが良くない気がします」という選手の声がそれを物語っている。

 南部監督は昨年、苦境に立たされた日本男子バレーの立て直しのために、火中の栗を拾う思いで就任した。長年滞っていた世代交代を進めながら、2年後に迫っていたリオ五輪に出場するという難題を請け負った。

 昨年は、結果が出なくても若手を使い続け、それと同時に世界に勝つための組織的な戦いを植え付けるという明確な方針が見えた。男子バレーをなんとかしなくてはという危機感と熱意を、もう一度チームの内側に向けてほしい。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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