石川祐希が見せたイタリア留学後の成長 真のエースとなる覚悟を持って世界へ挑む

田中夕子

日本男子バレーに差す一筋の光明

全日本にも選ばれている中央大学の石川祐希(14番)。ポイントゲッターとして、欠かせない存在感を放っている 【坂本清】

 1日から6日まで大阪市中央体育館で開催された「第64回 黒鷲旗 全日本男女バレーボール選抜大会」。高校生からV・プレミアリーグまで、さまざまなカテゴリーのチームが集まる中、取材陣やファンのみならず、出場するV・プレミアリーグの選手からも最も多くの注目を集めた、1人の選手がいる。

 石川祐希、19歳。

 体格、パワー、技術、戦術。飛躍的に進化を遂げる世界と比べ、残念ながら日本男子バレーとの差は埋まるどころか着実に開きつつあるのが現状だ。だが、一筋の光明を示すとするならば、おそらくそれが石川の存在ではないか、と黒鷲旗でも対戦した多くの選手が口をそろえる。

 元セルビア代表で、7シーズンに渡って日本の東レアローズでプレーし、黒鷲旗限りでの現役引退を表明した、デヤン・ボヨビッチはこう言った。

「これまで多くの若くて素晴らしい選手を見てきましたが、センスやテクニック、石川は持っているものが違う。きっと、日本を背負って立つ、重要な選手になるでしょう」
 
 星城高校(愛知)在学時には、入学直後からエースとして活躍。春高やインターハイ、国体など主要タイトルはすべて制し、圧倒的な力を見せつけてきた。中央大学に進学後も、すぐさまレギュラーの座を獲得している。サーブレシーブもしながら攻撃に入り、前衛時だけでなく「どのポジションからでも打てるように意識している」というバックアタック、さらには強烈なジャンプサーブ。得点を取るための技をいくつも持つ石川は、ポイントゲッターとして、もはや欠かせぬ存在であるのは間違いない。

新たな刺激を受けたモデナでの経験

年末からイタリアに短期留学。世界のトップ選手と密度の濃い時間を過ごし刺激を受けた 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 将来性を買われ、イタリア・セリエA1の強豪、パッラヴォーロ・モデナと契約を締結。全日本インカレを終えた昨年12月から、春季リーグが開幕する今年の4月初旬までという限られた期間ではあったが、ブラジル代表のセッター、ブルーノ・レゼンデら世界のトップ選手とチームメートとして密度の濃い時間を過ごした。

 試合に出場することは数えるほどしかなかったが、練習や生活を共にするだけでも、19歳の石川にとっては刺激を受けることばかり。スパイクの球質やブロックの技術。「毎日勉強することばかりだった」という日々の中、一番の衝撃は攻撃に対する考え方の違いだったと口にする。

「海外の選手はどんな状況でも真っ向勝負でガンガン打ってくるイメージでしたが、実際に見るとブロックにうまく当てていたり、無理に勝負しないで上手にかわす選手ばかり。高さとか、パワーとか、そっちばかりに目が行っていましたが、実際はすごく精度の高いプレーをする選手が多いことに驚きました」

 新たな刺激を受け、石川にも変化が生じる。星城高校時代のチームメートで、石川とともに同期間モデナに短期留学をしたリベロの川口太一(豊田合成)は、その「変化」を一番近くで見ていた1人でもある。

「高校までは、僕も祐希もただ楽しくバレーをやっていただけで、そんなに深く考えることはありませんでした。でも、イタリアでは自分がこうしたい、と主張しなければいけないけれど、言葉ができないから伝えられなかったり、うまくいかないこともたくさんありました。今までのプレースタイルだけでは通用しないと感じる中で、サーブの打ち方とか、スパイクのコースとか、いろいろやってみようとしているのがすごく伝わってきました」

 中央大学の松永理央監督も「(イタリアからの帰国後は)ショートサーブを効果的に使うようになり、攻撃に入るタイミングやスピードが一段と速くなった」と言うように、プレーの面でもこれまでとは違う変化、成長の証が見て取れるようになった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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