小林可夢偉が感じたモナコGPとの違い=ル・マンの風 現地レポートVol.5

田口浩次

「ファンの立場を考えた素晴らしいレース」

朝食時にコメントしてくれた小林可夢偉。今回はトヨタのリザーブドライバーとしてチームに帯同する 【田口浩次】

 長丁場のル・マン24時間レースに向けた予選が現地10日水曜日と11日木曜日の2日間に分けて行われ、結果はすでにニュースサイトなどで紹介されているように、18号車のポルシェ919ハイブリッドが予選初日の1回目に、3分16秒887をたたき出した。これは、昨年トヨタの中嶋一貴が記録した3分21秒789を約5秒も縮めるタイム。現在のようにル・マン24時間レースの名物「ユノディエール」の直線が、2キロごとに3分割された現在のレイアウトになって以降のコースレコード、2008年のプジョーが持つ3分18秒513という記録も更新した。

 予選2日目は、2回目の予選が赤旗によって途中で時間を短縮して終了し、予選3回目が2時間半へと30分延長する形で開始されるなど波乱もあったが、最終的に予選2日目でのタイムを上位陣がさらに縮めることはなく、ポルシェは予選トップ3を独占。アウディの3台が続き、日本勢ではトヨタが7位と8位につけ、日産は12位、13位、そして15位につけた。この後、12日はドライバーズパレードがフランスのル・マン市内で開催され、レースは13日午後3時(日本時間午後10時)に決勝スタートを迎える。

 さて、そんなル・マン24時間レースに、ドライバーはどのような印象を持っているのだろうか。今年、トヨタのリザーブドライバーとしてチームに帯同し、自身は13年にイタリア・フェラーリのチームからGTEクラスで参戦していた小林可夢偉が興味深いコメントをしてくれた。

「やはりすごい大きなイベントで、1年に1回、チームやドライバーの多くが、このレースに懸けているところがあると思います。同じ伝統あるレースのF1モナコGPよりも、正直価値があるんじゃないかと思う部分があります。なんて言えばいいのか、観客の立場として、モナコGPは少しミーハーというか、見栄をはってまで見に来ている人がいる雰囲気がありますが、ル・マンはそうした部分じゃなく、少しのお金でも十分楽しめる。ドライバーとしては、僕は13年にGTEクラスで出場して、成績もたいしたことなかったですが、24時間を走りきって本当にうれしかった。良い成績じゃなくても、走りきったことを楽しめたのは初めての経験でした。そういう伝統がル・マンには根付いていて、僕はモナコGPより価値があるんじゃないかな、と感じました。

 そして、このレースを見に来ている観客の皆さんも、レースが本当に好きで、先ほども言いましたが、モナコGPのようにお金をかけなくても、少しのお金でこんなに楽しめて、こんなにドライバーの近くまで来ることはF1では考えられない。F1がこの先つぶれるようなことがあっても、ル・マンがつぶれることはないでしょう。そう思えるほど、ファンの立場をしっかりと考えた素晴らしいレースだと思います」

“おもてなしの精神”を感じる運営姿勢

同じ学校の友人同士という男性ファン。キャンプを選択したのは「深夜に帰る苦労より、キャンプ場で喋って飲んで寝た方が楽しいから」と力説してくれた 【田口浩次】

 ファンがレースやドライバーを近くに感じることができる。小林可夢偉の言葉通り、ル・マンでは、ファンが思い思いの楽しみ方でレースを満喫している。まず、チケットが安い。今回、入場口で価格を確認したところ、自由席の場合、1週間の通し券で75ユーロ(約1万500円)、子供ならその半額で、日本のJAF(日本自動車連盟)に該当するACO(フランス西部自動車クラブ)の会員なら25%割引の優待価格となる。通し券でない場合でも、水曜日、木曜日の1日券ならば、31ユーロ(約4340円)と35ユーロ(約4900円)で、決勝レースの1日券は47ユーロ(約6580円)だ。この価格はF1はもちろん、日本の国内レースと比較しても安い。

2日目の予選開始前、サーキットの外へ出ると、メインゲートに向かうファンが続々と歩いていた 【田口浩次】

 それだけに家族連れが本当に多く、楽しみ方を誰もが知っている。例えば移動手段。サーキットの敷地内で驚くのが、自転車やキックボードなどが本当に多いこと。それもチーム関係者だけではなく、一般の観客が乗っている。確かに、サルト・サーキットは歩いて回るような距離ではないほどに広い。数々のコーナーを見て回りたいとき、自転車があるか、ないかの差は圧倒的だ。さらに、レースウイークを満喫するために、キャンプする人がこれまた本当に多い。敷地が広いこともあり、そこらじゅうにキャンプスペースがある。たまたま声を掛けたファンは、同じ学校の男友達で見に来たという。予選前から盛り上がっていて、これから食事を作り、その後、コースへマシンを見に行くという。

 また、老人やハンディキャップを持つ方にも楽しんでもらえるよう、敷地内にはそうした方のための移動手段としてカートが走っていて、それを待つ停留所が数多くある。まさに、日本が東京五輪で目指している“おもてなしの精神”が随所に感じられ、それが押し付けではなく、あくまでも個人の自由をサポートする形で成り立っている。小林可夢偉が例えた「F1がこの先つぶれるようなことがあっても、ル・マンがつぶれることはないでしょう」という言葉の意味が感じられる素晴らしい運営姿勢だ。

 さて、現地は12日金曜日のドライバーズパレードを迎える。再びル・マン市内に戻り、お祭り本番を迎える雰囲気を伝えていきたい。
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