ユーベを凌駕したバルサのプレースピード MSNが試合を決めて3冠対決を制す

清水英斗

イタリア王者のウイークポイントを突く先制点

両チームとも3冠の懸かった試合は3−1でバルセロナが勝利。4季ぶり5度目のCL制覇を成し遂げた 【写真:ロイター/アフロ】

 バルセロナは、ダニエウ・アウベスとジョルディ・アルバ。そしてユベントスは、アルトゥーロ・ビダル。2014−15シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)決勝の戦術的キープレーヤーは、この3人だった。

 ユベントスのシステムは、トップ下にビダルを置き、中盤がひし形となる「4−4−2」。中盤の横幅を、ひし形の3列でカバーするため、対戦相手の両サイドバック(SB)がフリーになりやすい。今回のバルセロナでいえば、右のアウベスと、左のアルバだ。

 前半4分の先制ゴールは、まさにこのポジションが起点となった。右サイドでボールを持ったリオネル・メッシが、ピッチを斜めに横切るサイドチェンジのパスを通すと、フリーで走り込んだのは、左サイドバックのアルバだ。対峙(たいじ)したユベントスのSB、ステファン・リヒトシュタイナーに対しては、ネイマールとともに2対1でサイドに数的優位がある。イタリア王者のウイークポイントだった。

 それをカバーするために、DFアンドレア・バルザーリ、MFクラウディオ・マルキージオがサイドへ引き出されたことで、今度は中央がガラガラになり、そのスペースを素早く察知したアンドレス・イニエスタの侵入から、最後はイバン・ラキティッチがゴールを挙げた。

可変システムで重要なビダルの役割

ユベントスの鍵を握ったビダル(左)。豊富な運動量で攻守に躍動した 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 もちろん、このようなシステム上のウイークポイントに対し、ユベントスが何も対策を講じていないとすれば、3冠を争うチームであるはずがない。

 そこで鍵を握るのが、トップ下のビダルだ。守備時にはポジションがかみ合うセルヒオ・ブスケッツをマークしつつ、自陣に引く際には、ボランチのラインに下がる。それにより、ポール・ポグバ、アンドレア・ピルロ、ビダル、マルキージオのMF4人が並び、中盤がフラットの「4−4−2」へ変形。横幅を3列で守っていたのが、4列になるため、ポグバやマルキージオは、両サイドのスペースに対応できる。ビダル個人にかなりの運動量が求められるが、ユベントスはこのチリ代表MFをシステムの鍵として、柔軟に状況に合わせる「4−4−2」をすでに完成させていた。

 この守備方法から、高い位置へ出てきたアウベスやアルバの裏を、2トップのカルロス・テベスやアルバロ・モラタが突き、ビダル、マルキージオ、ポグバが豊富な運動量でサポートし、カウンターを仕掛ける。前半8分、19分には、まさにその形からチャンスメーク。ユベントスのゲームプランは明確であり、よく設計されていた。

あらゆる“スピード”で一歩先へ行く

ラキティッチ(中央)が先制点を挙げた場面では、バルセロナのあらゆるスピードがユベントスの可変システムを上回った 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、だとすれば、なぜイタリア王者は先制を許してしまったのだろう? この可変システムで、4人のMFが並べば、サイドでアルバにスペースを与えることはない。したがって、芋づる式に中央が引き出される混乱も起こらなかったはずだ。

 ところが、ここでネックになったのは、ビダルの変形にかかる、わずかな時間だった。本来ならば、イニエスタの侵入に対しては、ボランチのラインに下がるビダルが対応できるのだが、この場面では、当初ブスケッツをマークしていたビダルのプレスバックが遅れている。つまり、ビダルのポジション修正にかかる時間を、バルセロナのプレースピードが凌駕(りょうが)しているのだ。

 コンパクトなキックモーションで繰り出される、メッシのサイドチェンジ。それをワンタッチで折り返すアルバ。バルザーリが空けたスペースを、いち早く察知するイニエスタの認知スピード。ありとあらゆる“スピード”が、ユベントスの可変システムを凌駕した。開始早々であったため、ユベントスがバルセロナのプレースピードに慣れていなかったことも、大きな要因に違いない。

 スペイン王者とイタリア王者の頂上決戦は、世界最高峰のプレースピードを見せつけたバルセロナが、一歩先へ行く。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント