FIFA汚職で気になるFIAの健全性=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第44回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

FIFAだけの問題ではない可能性

FIA会長のジャン・トッド(右)と、F1の商業面を牛耳るバーニー・エクレストン 【LAT Photographic】

 副会長2人を含む9人のFIFA(国際サッカー連盟)幹部と関係者が賄賂の受け取りやマネーロンダリングなどの容疑で逮捕され、世界のサッカー界に激震が走っている。ワールドカップの招致やテレビ放映権に絡んでの多額の金銭授受が発覚したのだ。

 以前から米国の検察を中心に捜査が行われていたが、それがついに明るみに出たということのようだ。しかし、この事件はサッカー界だけの問題ではない。天文学的数字の金が動く世界規模のスポーツイベントを主宰する組織ならどこでも直面する可能性のある問題で、今回のFIFA汚職事件はその警鐘となるだろう。

 F1をはじめとするモータースポーツを統括するFIA(国際自動車連盟)は、このFIFA問題を対岸の火事として眺めていられるのだろうか。FIAに関しては金銭に絡む問題はこれまで出てきたことがない。というより、FIAに関してお金に関する話はまったくと言っていいほど聞かない。FIAでは多くの人が働いており、彼ら、彼女らはちゃんとサラリーをもらっている。それどころか、地球上のあちこちで年に何度も会議を開いたり、世界中のモータースポーツの現場に多くの機材と共に出かけたりするわけで、そうした活動を支える資金がどこから入ってきているのかさえも語られることはない。実際にはどうなっているのだろう。

フランス、スイスに本部を置く理由

 FIAは非営利国際機関(NPO)という体裁を保ち、本部はご存じのようにフランスの首都パリにある。なぜなら、FIAはフランスの法律に守られて、一切の税金が免除されるようになっているからだ。そのいきさつはフランスの政治家との約束というから、まあフランス風ではあるが、その法律に守られている(というか、がんじがらめにされているというか)ゆえに、フランスを離れるとNPOとして認められなくなり、莫大な税金をかけられる恐れがあるとか。

 しかし、近年は環境が変わってきた。FIAはスイスにも技術本部を置いている。スイスこそ、シビルコード(民法)によって営利団体であっても税金が免除されるか、あるいは免除率が非常に大きいからだ。FIFAにしろIOC(国際オリンピック委員会)にしろ、巨大なスポーツ統括組織がスイスに本部を置くのはそのためだ。

 そうした点を踏まえて考えると、FIAがスイスにも本部を置いている理由は、そこでは営利活動は許されると解釈しているからだろう。そして、それは収益が上がっている証拠でもある。そもそもFIAはF1の商業権の所有者であり、現在は100年契約でFOM(フォーミュラワン・マネジメント)にその権利を貸与している。少なくともFOMから権利貸与に対しての支払いがあるはずで、そこに収益がないとは誰も考えまい。

会計報告の義務はないが……

 では、なぜFIAにはお金の話がついて回らないのか。それはもうひとつの隠れみのがある。FIAは会計検査をフランスのローカル法で行っているが、この法律はFIFAやIOCが採用する国際会計報告基準と違い、財務状況を公表する義務がない。つまり、そこでどのようなお金の流れがあっても、当事者以外に知らせる必要はないということだ。FIAからお金の話が出てこないわけだ。

 隠すものがなければ公表することは怖くない。公表したくないのは隠すものがあるからだろう……という疑問は当然湧いてくる。ということは、FIAも……。もしFIFAを直撃したような問題がFIAにも起これば、F1チーム、スポンサー、観客、テレビ局は黙っていないだろう。FIAがFIFAのような問題を抱えているとは思わないが、ならば一度ぐらい会計報告をしてもいいのではないだろうか。

『AUTOSPORTweb』

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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