遊び感覚の育成法で代表候補に急浮上 クラブチーム育ちの走幅跳・甲斐好美

折山淑美

次の目標は五輪の舞台へ

最初の目標だった日本選手権出場を果たし、次に目指すのは来年のリオ五輪 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 小さな頃の甲斐は、温暖な宮崎県日向市で育ったこともあり、海に行ったり山に行って木登りをしたりと、外で遊ぶことが多かったという。今でも時には、ほかの人が投げたブーメランを追いかけて、戻ってくる前にキャッチするまで止めないという練習をしたり、稲刈りが終わった後の水田で、稲の切り株を踏みながらジョグするなど、まさに遊び感覚の中で、野性児のように体を動かしている。

 試合に関しても金子コーチは昨年、さまざまな冒険をさせた。記録会も含めて出場した大会は19。これまでの試合経験が極めて少ないため、実績を積ませるためにと、前日練習もあえてさせないで、ぶっつけ本番で臨ませたりもした。

 しかし、そんな中でも3試合目からの17試合で、すべて6メートル台を記録した。
「金子さんと話をしていた最初の予定では、14年中に日本選手権の参加標準記録を切って6メートル10くらいを跳べるようにして、今年の日本選手権に出ようということだったんです。でも1年早く日本選手権に出られてしまったから、『日本選手権に出たら、次は国際大会だね。その中でも五輪は特別だから、それを目指してみよう』ということになったんです」

 世界大会で決勝に残る選手は、100メートルも11秒台前半で走っている。まずはそのレベルを目指し、それをクリアしてから跳躍練習を始めるというスケジュールだった。その上で、今年中に6メートル50くらいを跳べるようにし、来年の春には国際大会の参加標準記録となる6メートル70を目指そうと。

 だが今年、いきなり6メートル64を跳んでしまった。
「金子さんには世界で戦うためには100メートルを11秒2で走れるようにならなければダメだと言われているので、まだまだ改善するところは多いですね」と甲斐は言う。

 それでも今では、元々、手動で50メートル7秒5だったのも、6秒0台まで伸ばし、30メートルも4秒0台にまでなっている。スピード面の準備は徐々に整ってきており、この5月になって跳躍練習を始めたところだ。

いつかは七種競技も視野に

同じクラブチームには小学生ジャンパーも所属。「一緒に20年の東京五輪出場を目指しています!」 【スポーツナビ】

 目標は来年の春までにリオデジャネイロ五輪の参加標準記録(6メートル70)を突破すること。脚力はスクワットで160キロを持ち上げ、ジャンプスクワットでも120キロでできるだけの強さを持つ。今後は上半身の強化をし、跳躍動作を身につけながら、踏み切り時に背筋や肩周りの筋肉で体をもっと上に持ち上げられるようにしていかなければとも言う。

「今はリオ五輪までしか考えていないから、就職活動もまったくしていないですね。でも来年は100メートルでも日本選手権に出たいし、その後は七種競技もやってみたいと思っています」

 こう言う甲斐を、金子コーチは「七種も強いと思いますよ。やり投げは40メートルくらい投げるし、300メートル走をいきなりやらせたら38秒台で走ったから、200メートルもいけると思います。持久力も元々あるから800メートルも走れる。本当は53〜54秒台で走れる400メートル走も向いていると思うけど、本人がやりたくないと言いますから」と苦笑する。

 まだまだ可能性を持つクラブチーム育ちの甲斐が、これからどう開花していくか。その成果は日本陸上界の今後の選手育成にも、これまでとは違う方法論を提示するものにもなるだろう。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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