事故の中嶋一貴、ル・マン出走に前進=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第43回
手術翌日に退院、傷跡は注射のみ
フォーミュラEモナコePrixを訪れた中嶋一貴(右)。マイク・コンウェイと談笑 【赤井邦彦】
実は、われわれが見舞った数日後、中嶋はニース(フランス)の病院に移って手術を受けた。脊椎の欠けた部分をセメントで補強するというもので、この手術が成功した翌日にはもう退院して普通に歩けるようになったのだという。そして、5月9日の土曜日、ニースからほど近いモナコにフォーミュラEレースを見学に来たのだ。
フォーミュラEレースには、中嶋のWECトヨタチームの同僚であるセバスチャン・ブエミ、ステファン・サラザンが出場しているばかりか、マイク・コンウェイが公式コメンテーターとして働いていた。中嶋がそこに現れたのだから、みんな驚くことしきり。「えぇ〜、もう退院したのか?」「お前はロボットか?」といった歓迎の言葉がブエミやコンウェイから発せられ、中嶋は仲間の温かい言葉にうれしそうに応えていた。
それにしても現代の医療の進化はすさまじいものがある。中嶋の手術も注射器で患部にセメントを注入するというもので、傷跡は注射器の刺さった穴だけ。そして、手術の翌日には退院を勧められたそうだ。医者は「週末のレースに出てもいいよ」と言ったとか。その医者の言葉を聞いて、あきらめていたル・マン24時間レースへの出走も希望が見えてきた。
モナコでフォーミュラEレースを見た翌日から、イタリアへ行ってリハビリ兼トレーニングを開始。ル・マンに関しては、トヨタから欠場とも参加とも発表はない。事故の後だけに慎重な判断が必要だが、先日ACO(フランス西部自動車クラブ、ル・マンの主催者)が発表した正式エントリーリストには、中嶋の名前がアンソニー・デビッドソン、ブエミと共に「TS040 HYBRID#1号車」に記されていた。出走は確実だろう。
初観戦、中嶋のフォーミュラE評
「すごく盛り上がっていますね。1日で練習走行から予選、決勝まで行うパッケージは良いアイデアだと思います。チームやドライバーは大変でしょうけど、お客さんは丸1日たっぷり楽しめていいんじゃないですかね。それに、雰囲気がF1と比べてオープンなのもいいですね。ドライバーも楽しんでいて、お客さんとの距離が近いのもいいですね」
「レースのスピードは遅いけど、結構激しい争いがあるので目が離せないですね。レースの内容は濃いです。ただ、モナコのコースはスタートライン辺りのコース幅がフォーミュラEにはやや広く感じます。音は静か。予選が始まっているときにここへ来たのですが、まだ走っていないのかと思いました。もう少し音があってもいいかな」
プロドライバーのあり方に刺激?
ブエミやサラザンがスパ6時間レースの翌週にモナコに来てフォーミュラEを戦う姿を見て、プロのドライバーがなすべき仕事とはこういうものだ、と感じたのかもしれない。自動車メーカーに大事にされ、参加するカテゴリーまで決められる日本のドライバーの自由のなさを痛く思ったかもしれない。この点に関しては聞きそびれたが、プロのレースドライバーが楽しみながら生活をすることとはどういうことか、理解できたのではないだろうか。
すでに中嶋の公式Facebookにはイタリアでリハビリをしながらトレーニングする姿が公表されている。その表情は明るく、1カ月後に迫った世紀の大勝負、ル・マンへの気合いが見て取れた。今月末に行われるル・マン・テストデーは、自分自身のテストデーとも言えよう。
『AUTOSPORTweb』
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