石川祐希が見せたイタリア留学後の成長 真のエースとなる覚悟を持って世界へ挑む

田中夕子

苦しい時こそ自分が強く打ちに行く

短期留学後は、メンタル面でも変化が見られる。「チームが苦しい時こそ自分が強く打ちに行く」という言葉からはエースとしての自覚を感じる 【坂本清】

 加えて「エースとしての心構え」も、昨年の全日本インカレまでとは大きく変わったと言うのが、中央大学のキャプテンであり、セッターの関田誠大だ。

「入って来たばかりの時はおとなしい感じだったけれど、今は『競った場面は全部自分に(トスを)持ってきて下さい』と言ってくる。相手(ブロック)が3枚いるところで、苦しいのは分かるけれど、安易に逃げのフェイントとかされると、チームもガクンとなる。でも、祐希は逃げずに絶対打ち切ってくれる。後輩だけど、セッターとしてはすごく助けられる頼もしい存在です」

 U−23日本代表候補選手が抜けており、通常の大学リーグで戦うレギュラーメンバーとは異なっていたこともあり、黒鷲旗は東レ、サントリーサンバーズの牙城は崩せず、予選グループリーグで敗退となったが、最終戦となった東福岡高校との一戦では、こんな場面があった。

 16−12と中央大学が4点をリードして迎えた第1セット、東福岡はピンチサーバーを投入。変化の大きなジャンプフローターサーブは、コート後方、インかアウトか絶妙な場所に放たれた。リベロの伊賀亮平はインとジャッジしてレシーブしたが、直前まで判断に迷ったこともあり、返球は乱れてセッターの関田はつなぐのが精いっぱい。「誰でもいいから返してくれ」と思いながら、ワンハンドでボールを上げた。

 そこに飛び込んできたのが石川だ。

 迷いなく、思い切り放ったバックアタックは、「この体勢からならば攻撃できない」と次のプレーに対する準備をしていなかった東福岡のコートに鮮やかに突き刺さった。

「海外の選手だったら、ああいう場面こそ思い切り打ちに行くので、打てるボールだったら狙ってやろうと思っていました。チームが苦しい時こそ自分が強く打ちに行く必要があると思って、とにかく思い切り打ちました」

 チームのために、攻めるべき時は迷わず攻める。エースの自覚が生んだ、象徴的なプレーでもあった。

ワールドリーグは再び世界を知るチャンス

全日本として戦うワールドリーグは貴重な実戦経験の場となる。強い覚悟と信念を持って、世界へ挑む 【坂本清】

 高いポテンシャルを持った、新たなエースの誕生に期待は高まるばかりだが、世界で戦うためには、克服すべき課題もある。現在の全日本の中では、南部正司監督からも「チームで1、2の安定感がある」と称賛されるサーブレシーブだが、黒鷲旗を制し、かつては自身もサントリーの大エースとして活躍したジルソン・ベルナルド監督はこう言った。

「柳田(将洋)も石川も、どちらもスパイクやサーブは本当に高い能力を持った選手。ただし、もっと素晴らしく立派な選手になるためには、彼らにとってサーブレシーブとブロックは、もっともっと高めなければならないポイントであるのも事実です」

 大学リーグを戦う中では、おそらく石川の課題を克服させるだけのサーブ力を持つ選手はいない。5月30日に開幕するワールドリーグは、勝敗以上に石川にとっても再び新たな世界を知るための貴重な実戦経験の場となることだろう。

 だが、それだけでとどまる気はさらさらない。

「まずは体力をつけて、常に自分の力を出し切れるように。負けていい試合なんて1つもないので、1戦1戦、全力で勝ちに行きたいです」

「若手」でも「次世代」でもなく、真のエースとなるために。誰にも負けない。強い覚悟と信念を持って、いざ、世界へ――。新たな一歩を踏み出そうとしている。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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