日本バスケ界改革後も見据えて 川淵チェアマン独占インタビュー<後編>

大島和人

「有料入場者数の実数は明確にすべき」

タスクフォースメンバーの中心として強いリーダーシップを発揮している川淵チェアマン(中央) 【スポーツナビ】

――bjリーグもNBLも経営的にはまだ不安定なチームが多く、リーグが経営をチェック、指導することが必須だと思います。そこはJリーグのような仕組みを取り入れますか?

 それはやるよ。(JBAの新事務総長に内定した)大河(正明・Jリーグ常務理事)はそれの専門家だもん。彼がいることが、そういう仕組みを作る上でプラスになると思っている。だって、今のような債務超過になっているとか、なりそうだとかいう自転車操業のチームが数多くあるのは大問題だよね。そういうことを事前にチェックして、リーグ全体から見ても健全な経営をさせていく責任がある。これはもう、しっかりやっていきますよ。

――Jリーグは実施要項で「入場者数は実際にスタジアムに来場した観客の数」という規定があり、違反したら罰則もあります。バスケの新リーグでも同じように“公称観客数”の基準を統一、徹底しますか?

 平均1500人と言っているけれど、500人くらいタダで入れているチームが結構多い。だから有料入場者数の実数は明確にすべき。僕の知識では平均入場客数が1500人で、平均単価は1500円。1500人と1500円をかけると、1試合やったら(売り上げが)225万円。でもどこかのアリーナを借りたら、使用料が200万円だっていうんだよ……。もう笑っちゃうよね。

 僕は実際に2試合しか見ていないんだけれど、入場券を買って入るときに、なかなか売り場が分からなかった。最初に行った川崎(東芝ブレイブサンダース神奈川/NBL)は、チケット売場の窓が閉まっていて、行ったら開いて……。「どれくらいの席がありますか?」と言ったら一番安いところで(当日券が)3000円だったよね。あれ? 結構高いなって。で、そのときチケットを買っているのは僕一人だった。盛岡(岩手ビッグブルズ/bjリーグ)に行ったときは、結構雰囲気が違っていて、でもチケットを購入する人の列を見ようと思ったら誰もいない。その時の値段が3000円から7000円くらい? ちょっとよく覚えていないけれど。(編注:岩手ビッグブルズの大人当日券は2700円〜7000円)。

 平均1500円ってどういうことかな? って。逆に入場料金も平均3000円では高すぎるなというのがあって、いろいろな問題はある。ただすべてのチームを見たわけじゃなくて、たった2つしか見ていないからね。

 要は入場者数がいくらで、入場料金収入がいくらと、割り算をしたら単価がちゃんと出てくるでしょう? 割り算をして、ちゃんと出てくるような正確な数字を発表しなさいよということですね。それは厳しくやる。

「スポーツの価値は今よりはるかに高まる」

――新リーグの試合数のことをお尋ねします。欧州のリーグはサッカーと同じように週末に1試合だけをやるのが基本です。NBAは平日開催も含めて、週に3〜4試合を消化します。日本はbjリーグもNBLも土日に同じ相手と連戦を組むというやり方が標準です。そこは新リーグになっても変わらないのでしょうか?

 これについてもチーム関係者が相談して決めていけばいい話で、僕が言う話じゃない。より多くのお客さんを集めるには何が良いかという視点でモノを考えればいい。

 僕から言わせれば、平日1回はしたいということを言っていたから、それはしていいんじゃないかなと。年間30試合、ホームでやれればいいとも。つまり年間60試合という意味だね。土日ということを継続してやるのは問題があると最初は思った。でも経費を考えればその方が安いわけだし、プロ野球は3連戦だからね。それに慣れてしまえば、どうっていうことはないのかなと。1試合で帰ってきたら(移動のコストが)もったいないもん。

――行政、地元の協力という部分で、動きはいかがですか?

 先ほども言ったけれど、川崎市はアリーナを5000人収容に変えると言ってくれたし、盛岡市長も直接僕に「5000人にします」と言ってくれたからね。行政はスポーツで地域を活性化したいと思っている。Jリーグをつくる時、15000人収容のスタジアムと言った時にみんな無理だと思ったけれど、各スタジアムの改修や建設が熱を帯びてきた。バスケの人たちはそういう自治体の動き方を知らないけれど、バスケもそうなることは間違いないし、事実、各地でアリーナ建設の話が進行している。

――例えば5000人以上を収容できるアリーナを設置するという条件がありますけれど、そこは“ぎりぎり越えられるハードル”を設定したということでしょうか?

 どんなリーグができるかって、今までの延長線上とみんな思うけれど、そうじゃなくて、全く違うプロリーグができるんですよと。多くの人に知ってもらうためには、高いハードルを設ける以外に何があるの?

 今までなぜbjリーグとNBLが統一できなかったかといったら、bjリーグの資本金15億円が債務超過になりかかっていて、その解決策が見つからなかったからなんだ。つまり、目先のことばかり考えていて、足元ばかり見ていた。僕にいろいろ言われて、もっと発展する夢があるってことに初めてバスケットボール界が気付いた。夢を見なければ発展がないと分かり始めた。そこは今回大きく変わっていく兆しだね。

――最後に、バスケとスポーツが持つ可能性をどうお考えですか?

 AI(人工知能)は2045年に、人間の脳を超えると言われているんだよね。昔に比べればブルーカラー(作業服を着た作業員など現業系や技能系の職種)の数が減って、総雇用の50%くらいは人工知能がやっちゃうということになる。

 そこはポジティブに考えなければならないんだけれど、そういう時代だからこそ、スポーツの価値はより高まると思っている。人間そのものには大きな変化はないわけで、だからこそやれるスポーツに興奮し感動するから。それはスポーツと芸術、文化をおいて他にないと思うんだ。

 つまりスポーツの持つ価値は、今よりはるかに高い地位を占めるようになる。だからこそスポーツに、もっと英知を集めてやらないとダメですよということだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント