川口悠子が語るキャリアとロシア 「大きな決断ではなかった」国籍変更

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復権を遂げた一方で生じた問題

ソチ五輪でロシアは金3個を含む5個のメダル獲得。フィギュア大国として完全に復権を果たした 【写真:ロイター/アフロ】

 その一方、世界国別対抗戦では女子シングルがロシアチームをけん引した。FSでエリザベータ・トゥクタミシェワが1位、エレーナ・ラジオノワが2位に輝くなど、相変わらずの強さを見せつけている。今季はトゥクタミシェワが、GPファイナル、欧州選手権、世界選手権で3冠を達成し、ラジオノワも3大会すべてで表彰台に乗った。今回初めてひと回り以上も年齢が違う彼女たちと同じチームで戦った川口は、頼もしい思いでこの10代の選手たちを見つめていたという。

「普段は普通のティーンエイジャー。でもやるときはやる。プロ意識がすごく高いなと思います」

 川口がロシアに所属を移した06年当時(編注:まだこの時点では国籍は取得していない)、女子シングルは低迷期を迎えていた。しかし、07年にソチ五輪の開催が決まると、国を挙げて全種目の強化に乗り出した。08年のバンクーバー五輪では銀1個(男子シングル)、銅1個(アイスダンス)に終わったものの、ソチ五輪では金3個(女子シングル、ペア、団体戦)、銀1個(ペア)、銅1個(アイスダンス)と、その成果が一気に現れた。いまやロシアはフィギュアスケート大国として完全に復権を遂げている。

 一見、競技を取り巻く状況は良くなっていると思われがちだが、川口はそうでもないと語る。

「昔の方が選手にとっては環境が良かったと思います。環境が良いと言うかみんなに対して平等だったんじゃないかと。エリートスポーツとまではまだいってないと思うんですけど、資本主義の影響もあり、当時よりすごくお金がかかるスポーツになってしまったんです。もちろん良くなっている部分もあるんですけど、多くの選手にとってみれば、やはり厳しくなった面はあるんです」

「ロシアでやっていて良かった」

「滑ることが好きで仕方がない」と語る川口。今後も銀盤の上で多くのファンを魅了することだろう 【坂本清】

 ロシア国籍を取得してからかなりの時間が経過したとはいえ、日本で生まれ育った川口はいまだにコミュニケーション面で戸惑うこともあるようだ。それはペアを組むスミルノフとて例外ではない。

「人間だから普段のメンタルが違うのは当然だし、男と女というだけでも違いますよね。ただ育ってきた国も違うので、ときには『何でこうなるの?』というところが意識しない部分で出てきたりするんです。そういうときはパニックになったりもします。特にストレスがかかったとき、人間ってそういうのが出ますよね。そこで意外な反応をされると、こっちも『えっ?』となってしまう。でも試合のときはきれいにぴたりと合わせないといけないので、そういうのは難しいです」

 国籍変更については今振り返ってみても、特別な出来事ではなかったという。何よりペアの選手としてトップを目指すためには、そうするより他なかった。そのため「そんなに大きな決断でもなかったし、ひとつの手段としてしか思っていなかったです」と、川口はあっけらかんと話す。

「ロシアはペア大国でもあるし、その中で試合をやっていくことは、下からの突き上げもあって、けっこうきついんですね。確かに厳しい環境だけど、やりがいもあるし、やっぱり競争相手がいないと、上達もしにくいので、ロシアでやっていて良かったなと思っています」

 来季以降の去就は現在のところは未定。しかし、たとえどんな決断に至ったとしても「ただ滑ることが好きで仕方がない」という川口は、これからも銀盤の上で、多くのファンを魅了してくれることだろう。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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