「体幹で走る」とはどういうことか? 青山剛のランニングナビ

青山剛
 例えば野球のボールを投げる動作は、体幹主導で投球動作に入り、最終的に腕や手でコントロールをつけるイメージです。しかし、疲れやすい腕や手の主導で投げていると、疲労してたくさんの球数が投げられず、腕や手で行うべきコントロールも当然乱れてしまうというわけです。

 ランニングの場合、体幹主導で走るとはどういうことなのでしょうか? それは「いかに脚を節約して走るか」となります。もちろん脚を全く使わないわけにはいきませんが、どれだけ負担を減らして走れるかが、「体幹を使って走れるか」につながるのです。

 しかし、間違ってほしくないのが「体幹で走ればすぐに速く走れる」というわけではないこと。速く走れるようになるには、体幹などの筋肉群のほかに心肺機能や神経系スキルも高めなければなりません。いわゆるスピード練習を行って、すべてを高めてこそ速く走れるようになるわけです。

 イメージとして、疲れにくい筋肉群の集まりの体幹で走れるようになると、
・持っているスピードの持続時間が長くなる
・ペースダウンが先延ばしできる
・結果ゴールタイムが短縮される

 と、捉えることが正しい認識と言えるでしょう。

鍛えるだけでは体幹で走れない!?

【撮影:真崎貴夫】

 では、どうしたら体幹で走れるようになるのでしょうか? 最近「体幹トレ」をされている方も多くなっていますが、私からズバッと言えば「鍛えるだけでは体幹で走れるようにはならない」ということです。

 私もアスリート時代、そしてコーチとしてオリンピック出場の前は、体幹トレをかなり行っていました。しかしその時感じていたのは、体幹トレを行っている割には体幹が使えている実感が少なかったことです。

 そこで、それまでのトレーニング日誌を読み返すと、たまたまスケジュールの関係でそれまで走った後に行っていた体幹トレを、「走る前に」行った時のほうが、その日ランニングパフォーマンスや感触が良かったことが多いことに気づきました。そんな感触を得始めた時期に、ランニングコーチである金哲彦さんと出会い、その感触が間違いではないことを確証できました。

 その後、徹底して走る前に体幹トレを行ってからランニング練習を行うサイクルに変えたのですが、その効果はてき面。みるみる走りが良化されていった=体幹で走れるようになっていったのです。

あらゆるスポーツに適応できる3Sメソッド

【撮影:真崎貴夫】

 これまで鍛えるだけだった体幹は実はうまく「使えていなかった」わけです。事前に体幹トレを行うことで、正しく走るために使う体幹の筋肉群に少し筋肉痛をつくり、そのことでそれらを動員しやすくして走るということです。

 それを今では「体幹スイッチ」と名付け、ストレッチ→スイッチ→ストレングス(=走る)、の流れを「3S」として指導をしています。ストレッチ、スイッチをせずに走るのはNGとしています。
 野球でいえば、「ストレッチ」→「キャッチボールや素振りなど基礎練習」→「実戦プレー」という流れと同じ考えです。キャッチボールや素振りもしないで実戦プレーしても、楽しいけどうまくはなりづらいのと一緒です。

 この3Sメソッドはあらゆるスポーツに適応できます。私が以前指導していたフォーミュラカーのドライバーは、それまでほとんど何もしていなかった乗車前に、ストレッチ、スイッチを徹底して行った結果、ドライビングテクニック(=腕のステアリング動作、足のアクセルワークなど)に余裕が生まれ、パフォーマンスが向上しました。最高速度が250キロを超える世界ですから、いかに余裕を持ってマシンをコントロールできるかがとても重要だったわけです。

 体幹トレを行うことはとても大事。しかし、いくら鍛えても使えなければ、走ることに関しては意味があまりありません。「走りで使える体幹」を目指し、トレーニングを見直してみませんか?

(写真:Getty Images、真崎貴夫)

※3Sメソッドが学べる「青山剛ランニングセミナー」を毎月開催。詳しくはTeamAOYAMAホームページまで!

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著者プロフィール

元プロトライアスリート。大学時にプロ活動を開始し、1999年世界選手権日本代表に選出される。その後トライアスリート中西真知子選手のコーチとなり、指導者としての活動をスタート。同選手を2004年アテネ五輪出場に導く。現在は、ランニング、トライアスロン、クロストレーニングのコーチとして競技者から初心者、子供、タレントまで幅広く指導。著書に『ランニング・コアメソッド』『DVDパーフェクトストレッチ100』など多数。(社)日本トライアスロン連合強化チーム・指導者養成委員 元日本オリンピック委員会・強化コーチ

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