茶道はスポーツに通ずる!? 「松原渓のスポーツ百景」

松原渓

茶道の深い魅力に触れる

【松原渓】

 実は、10代後半に茶道の授業を一度体験したことがある。当時、私は基本的な礼儀作法や決まり事をまったく知らず、ものすごく厳しい先生に終始怒られっぱなしだった。以来、個人的には茶道に対して堅苦しいイメージが拭えなかった。しかし、今回の体験を通じて茶道の深い魅力に触れることができた。

 今回学んだ基本となる作法(翡翠流)を私なりにまとめてみたい。

1)茶室に入る
茶室には「にじり口」という小さな扉(高さ約65cm、幅約60cm)がある。この狭いにじり口をくぐり抜けるために、武士は刀を捨てなければならず、どんな身分の人も茶室の中では皆平等という意味があるそうだ。にじり口から帰る際は、次に出る人のために履物を用意してあげるのも礼儀だそう。

畳の縁を踏まないように…… 【松原渓】

2)歩き方、立ち方、回り方、座り方
この4つの動作は茶道の基礎の基礎にあたる部分で、一連の動作は覚えるまで反復練習あるのみ。
・立ち方:両足のかかとを立て、お尻をその上に乗せる。左足を前に出し、立ちながら右足を揃える。座る時は逆の手順(右足を引いて、膝をついて両足を揃えて座る)。
・歩き方:畳の縁は絶対に踏んではいけない。畳を歩く時には、すり足(親指を上げない、足の裏を見せない)で、女性は1畳につき6歩、男性は5歩程度で歩く歩幅が理想だという。回転するときは、右足(左足)を90度左(右)足にかけて素早く回転。

 足の裏を見せない歩き方は難しいけれど、背筋が自然と伸びて、ハムストリング(太ももの裏)が刺激される。上下動が少なく、見た目も美しいのでぜひ日常でも取り入れてみたい。

【松原渓】

3)お辞儀
お辞儀は以下の3種類を使い分ける。
・「真」:最も格式が高い。掌をぴったりと畳につけて、腰から折る。
・「行」:一番使う機会が多い。指を第二関節ぐらいまでつけて頭を垂れる。
・「草」:指先を正座した膝の前に添える。「お先に」など、ちょっとした会釈程度や、掛け軸などを拝見する際の姿勢。

 ピンと背筋を張ったお辞儀は美しい。でも、やってみるとなかなかイメージ通りにいかない。鏡を見ながらの反復練習あるのみ!

4)床の拝見(掛け軸、お花鑑賞)
入り口から移動し、座り、お辞儀という一連の流れをおさらいしながら、掛け軸やお花をじっくり鑑賞する。最初と最後には「真」のお辞儀で心からの感謝を示す。

(左から)菓子切り、扇子、懐紙 【松原渓】

 この日のお花は白い椿の花で、挿している花入れは信楽焼きの作品。旅に持って行く枕に似ているということから「旅枕」とも言われるのだと、先生が教えてくれた。こういった知識はあればあるほど、楽しみ方も広がるのだろう。お客さんを楽しませるためのさまざまな演出を見逃さないように知識を増やしたい。

5)茶菓子、お茶(抹茶)をいただく
お茶を入れてもらっている間に、出されたお菓子をいただく。お菓子は用意した懐紙(かいし)の上にお菓子を置き、菓子切りで切り分けて食べる。

抹茶の粉が入った棗(なつめ) 【松原渓】

 お茶をいただく茶碗やお茶菓子のお皿など、絢爛(けんらん)豪華なものもあれば、質素だけれど味のあるものもある。この茶碗を目で楽しむのも、茶道においては一つの「分野」なのだ。抹茶の粉を入れる棗(なつめ)や茶筅に至るまで、すべてが芸術作品。和菓子も季節によって違うものが用意されるそうで、この日は淡いピンクの「桜きんとん」という和菓子をいただいた。「夏や秋はどんな和菓子が出されるのだろう?」と想像するのも楽しい。
 静かな和室でいただくお菓子は、特別に美味しく感じた。テレビの音や会話など、現代では避けられないようなあらゆる情報をシャットダウンし、相手のおもてなしに対して集中力を高めることで、その心もより深く感じられるものだと実感。

 続いて、抹茶をいただいた。茶碗の温め方やお湯の温度に至るまで、細やかな心遣いが一服のお茶に凝縮される。細かな泡がふんわりと立った抹茶は滑らかな口当たりで、ほのかな苦みが茶菓子の甘みを中和してくれる。

 いただく際は、茶碗の美しい柄に敬意を表して正面から飲むのを避け、時計回りに2回ほどずらして飲む。数回に分けて飲み、最後は「ズッ」と勢い良く息を吸い込んで、お茶を最後の一滴まで美味しく飲みきった合図を示す。そして再び茶碗の向きを反時計回りで2回に分けて戻し、畳の上に置く。

 今回お茶を点ててもらったのは、なんと16歳の青年だった。春休みや夏休みを集中的に利用して1年ほど通っているそうで、袴の着こなしからお茶の作法に至るまでマスターしていた。お茶の点て方(点前)の所作に迷いがなく、凛とした佇まいや表情にも鍛錬の成果が表れているようで格好良かった。銀座という立地もあり、外国から学びにくる人も多いのだという。

茶道は一期一会

 茶道に由来する四字熟語に「一期一会」という言葉がある。この機会は二度と訪れないかもしれない、という心構えで、お互いにこの一瞬を大切に思い、最高のおもてなしをしましょう、という意味の言葉だ。

 ここで90分間の授業は終了。覚えることが多くて頭がパンクしそうだが、一つひとつの所作をその意味を考えながら覚えれば、自然と身に付くものだろう。願わくば、10代の頃にこんな経験ができていればなぁ!とも思う。今後は懐石料理店や和菓子を出す喫茶店などに行く際の作法や、普段のお茶の入れ方などにも、今回学んだことを取り入れてみようと思う。

 最後に、体験を通じて感じた茶道の魅力を以下にまとめた。
1)芸術作品を見る目、教養を養える。感性が研ぎ澄まされ、季節感が身につく(掛け軸、お花、茶器の絵柄などは季節によって変化する)
2)正しいお辞儀、正座の仕方を学べる。優雅でメリハリの利いた身のこなしを学べる
3)静かな空間で神経を研ぎ澄まし、集中力が高まる
4)相手に対する感謝と尊敬の心を示す、コミュニケーション力を高める

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著者プロフィール

サッカー番組のアシスタントMCを経て、現在はBSフジにて『INAC TV』オフィシャルキャスターを務める。2008年より、スポーツライターとしての活動もスタート。日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナのセレクションを受けたことがある。『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生が監督を務める女子芸能人フットサルチーム「南葛シューターズ」にて現在もプレー。父親の影響で、幼少時から登山、クロスカントリー、サイクリングなど、アウトドア体験が豊富。「Yahoo!ニュース個人」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/)でも連載中

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