「君子豹変す」こそ、原監督のすごみ 阿部の捕手復帰で負のスパイラル止める

鷲田康

わずか7試合目で“放棄”「一塁・阿部」

相川の故障離脱に、原監督は「99%ない」と断言していた阿部(左)の捕手起用を決めた 【写真は共同】

 エッ! もうかよッ!! 

 4月3日の巨人対阪神戦。先発メンバーに、こう思った巨人ファン、野球ファンも少なからずいたはずである。

「4番、キャッチャー、阿部」

 原辰徳監督が掲げた今年のチーム作りの根幹であったはずの「一塁・阿部慎之助」は、わずか7試合目にして“放棄”された。

 もちろん簡単な決断ではなかった。

「99%捕手に戻すことはない」

 阿部のコンバートを決めた時点で、原監督はこう話した。これは不退転の決意表明のようなものだった。
 昨シーズンは打者として全く精彩を欠いた阿部を、いかに再生するか。その最後の一手だったのが、負担の大きい捕手という重責を外して、打撃に専念させるコンバートだったのだ。そして、その裏には2年目の小林誠司を育てる、という大きな狙いがあったのも確かだ。

 これは向こう10年をにらんだチーム方針である。
 ただ、同時に2015年のペナントレースを制するためには、まだまだ経験不足の小林一人でシーズンを乗り切ることは難しい。そのためにはサポートメンバーではなく、小林と“両輪”になるぐらいの実力を持つ捕手が必要だった。そうしてFAで獲得したのが、相川亮二だったわけである。

「慎重さが足りない」小林のリード問題

 だが、現実はそうは甘くなかった。
 小林を育てるために開幕から先発で起用して、出場機会を与えてきたが、むしろこの積極起用が若い捕手の課題を浮き彫りにすることにもなっていた。

 いくつかのデータがある。
 開幕から相川がケガをするまでの6試合で小林がマスクを被ったのは29イニング、一方の相川は18イニングだった。
 その中で小林の被打率は3割1分3厘で11本の本塁打を許しているのに対して、相川は被打率2割4分2厘で2本塁打しか打たれていない。被出塁率も小林の3割6分1厘に対して、相川は3割1分1厘。先頭打者に出塁を許した回数は小林が13回あったのに対して、相川は5回しかなかった。

 もちろん、こうした数字は捕手だけの責任ではない。ただ、これだけ明確に数字が出てしまうと、ひとことで言えば「慎重さが足りない」小林のリードの問題も考えざるを得ないのである。

 そうして開幕カードの横浜DeNA戦は2勝1敗で勝ち越したものの、2カード目の中日戦でまったくいいところなく3連敗を喫するとともに起こった相川のアクシデント。2日の試合、7回の走塁で右太もも裏側を痛めて戦線離脱が決まり、しかも復帰までに1カ月近くかかる重症であることが明らかになった。

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著者プロフィール

1957年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。91年オフから巨人キャップとして93年の長嶋監督復帰、松井秀喜の入団などを取材。2003年に独立。日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、雑誌、新聞で活躍。著書に『ホームラン術』『松井秀喜の言葉』『10・8 巨人VS.中日 史上最高の決戦』『長嶋茂雄 最後の日。1974.10.14』などがある。

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