躍進の背景に「甲子園の経験」 夏の悔しさを生かした選抜の強者たち

松倉雄太

落ち着き、冷静さは経験者ゆえの強み

昨夏、大阪桐蔭に敗れた悔しさが敦賀気比の平沼(写真)を大きくした。夏に向けて、今大会に出場した選手たちの成長を期待したい 【写真は共同】

 準々決勝で敦賀気比にサヨナラ負けを喫したが、静岡も夏の甲子園初戦敗退時のレギュラー6人を主体に、経験を生かした落ち着きのある戦いぶりを見せた。全国制覇できるだけの力は十分に見せており、春のサヨナラ負けの経験でさらに強くなって、夏を目指すことだろう。

 八戸学院光星の中川優と近江の小川良憲も昨夏を経験した投手。中川は初戦の九州学院(熊本)戦で7安打2失点。先制されてもピッチングを乱すことなく、落ちついたマウンドさばきは、春夏合わせて3回目の甲子園だからこその賜物(たまもの)。「9種類」と本人が話す多彩な変化球も光った。近江の小川は昨夏の甲子園に続き、この選抜でも1回戦で完封。多賀章仁監督も、「安定感がある」と話す冷静沈着なピッチングが際立った。ただ、捕手の仲矢惇平は昨秋の近畿大会後にコンバートされたため、小川とは公式戦で初めてバッテリーを組んだ。ゆえに、バッテリーとしては経験の浅さが垣間見える場面があった。このバッテリーで甲子園を経験し、夏はさらにたくましくなってくるだろう。

野球以外でも時間の使い方に余裕

 甲子園を一度経験すると、野球以外の部分でも大きな武器となる。準決勝まで進出した大阪桐蔭のエース・田中誠也はこんなことを言っていた。
「(甲子園に出場して)宿舎に入ると、普段の寮とは違って一人部屋になる。テレビなども自由に見られたりするので、リラックスできる時間が増える」

 選抜で同一都道府県から複数校出場した場合には例外があるが、甲子園に出場すると都道府県ごとに毎年同じ宿舎が割り当てられる。そのため、2回目、3回目の甲子園出場となると慣れてきて、田中の言葉のように自ら時間を作って甲子園出場を楽しめるようになると考えられる。さらに、自校で練習ができる近畿の一部のチームを除いて、大会中は1日2時間の割り当て練習しかできない。だから初めて甲子園に来た選手やチームは、練習が不足していると考えたり、それ以外の時間の使い方に慣れる前に大会が終わってしまうことが多い。

甲子園で負けた経験が成長を促す

 野球の部分では、甲子園で負けたという経験。今大会出場校では大阪桐蔭のみ夏の負けを知らなかったが、昨夏、甲子園に出場したチームは『もう一度ここに来て勝つ』と強い意志を持って冬の練習に取り組んできた。敦賀気比の平沼のように、大阪桐蔭に大敗して「この負けは絶対に忘れない」と必ず甲子園に戻ることを、涙を流して誓った選手もいる。昨秋は調子が上がらない中、夏までに身につけた勝つためにはどうしたら良いかというピッチングスタイルで、選抜出場を確実にするところまで勝ち上がっている。

 甲子園で負けるということは、それだけ選手が成長できるきっかけを与えてくれる。選抜に出場した全選手が、今回得た「甲子園の経験」を生かして、夏へ向けて大きく成長していってほしい。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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