センバツで顕著な「東高西低」の傾向 東日本勢が「名前負け」を払拭した理由

楊順行

私学の台頭が東北・北信越勢を強くした

3大会連続で甲子園準優勝を果たすなど、着実に力をつけている八戸学院光星高(青森)。今回のセンバツも初戦で勝利するなど、高い実力を発揮している 【写真は共同】

 なぜ東北、北信越勢が強くなったのか。かつて中京大中京高を率いた大藤敏行さんに聞いた。09年の夏を制覇した大藤さんは、11年から秋田県の高校野球強化プロジェクトのアドバイザーを務めている。その秋田から初出場の大曲工高は、1回戦で香川の英明高を破り、秋田県勢としては9年ぶりのセンバツ勝利を挙げた。

「今、高校野球の地域格差はなくなっています。かつては、積雪が冬の練習の制約になり、また東北や北信越は、一部の例外を除いて公立が強かった。となると練習の環境や人材という点では、限界があったわけです。それが今は私学が経営戦略として野球に力を入れ、室内練習場を整備し、積極的に冬場の遠征にも出かけています。そうして結果を残すほど、優秀な中学生が集まりやすくなる。さらに、各県にそれぞれライバルとなる私学が複数あることも大きいですね」

 確かに、東北や北信越の台頭は、新興私学の台頭と等号で結ばれる。青森なら八戸学院光星高、岩手は花巻東高、福島は聖光学院高、新潟は日本文理高……。大都市圏の中学生にとって、競争率の高い地元よりも、甲子園に行ける確率の高い地方の強豪校は魅力で、野球留学も盛んになる。また、出身校や地元にこだわらず、指導者が各県に散らばっているのもレベルを均等化した。西日本には古豪と呼ばれるチームが公立・私立問わず多数あるが、そういうチームほど、有力OBの発言力が弊害になることもある。新興の私学にはそれが少ない、というのは邪推だろうか。

情報化でどこでも質の高い野球が学べる時代

 さらに秋田県のように、実績のある指導者を招くなど、野球のレベルアップを図るプロジェクトは80年代から各県で見られているし、交通網の整備も地域格差の解消を後押しした。例えば、通算勝ち星最下位の新潟県にしても、過去5年の甲子園で8勝8敗と四国勢になんら見劣りしない。前出・大井監督によると、
「昔の新潟では、140キロ級のピッチャーと対戦したくても、県内にはなかなかそんなピッチャーがいなかったのよ。だけど高速道路があれば、関東なら日帰りできるから、甲子園常連校とも練習試合ができます。そうやって場数を踏めば、新潟の純情な子でも、名前負けしないようにもなるしね」

 一方で、明徳義塾高(高知)の馬淵史郎監督はこんなふうに言う。

「ワシらが子どものころは、社会人野球のチームもたくさんあれば、プロ野球のキャンプも四国に多く来た。先進的な野球に触れる機会がいっぱいあったわけです。それが社会人チームも、プロのキャンプも減った。逆に、情報化がどんどん進んで、どの県だろうが質の高い野球を学べる。それが大きいよね」

 そして、四国の野球にプライドを持つ愛媛出身の馬淵監督は、「今は四国だろうが、北信越だろうが関係ない」と嘆くのだ。狭くなった日本で先進県に学び、どん欲に情報を集め、指導者を招く。県内のライバルと切磋琢磨し、根拠のない名前負けも払拭(ふっしょく)した。それらが、地域格差解消の一因になっているのだろう。あなたの県はこのセンバツ、いかがでしたか?

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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