競馬場に癒やしペッパー 宮記念◎サドン=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第94回」

乗峯栄一

ソフトバンクの技術者は“CAペパ子”を作っている

[写真3]巻き返しを狙う昨年覇者コパノリチャード 【写真:乗峯栄一】

「フライトって何だ?」

「ロンドンから南回りでドバイを経由して……」

「ロンドン? ドバイ? この格好でか、このピンクのガータベルトに黒のパンティ履いてか、あーん?」

「ああ、ごめんなさい、お客さまには出来るだけ見えないようにしていたんですよ」

 謝るたびに胸があらわになり、スカートがめくれ上がる。ほんとに謝ってるのかどうか分からない。こちらはフーと溜息をつく。

「ほんとにしょうがないやつだなあ。お仕置きしてやるしかないな」

 そう言いながらぼくは裸になる。

「ああ嬉しい、お仕置きしてもらえるの、ペパ子嬉しい」と胸や尻があらわになったCAペパ子が寄ってくる。このペッパー・ロボットはなぜか“ペパ子”という名前だ。何ていう名前だ。

「ほんとにしょうがないやつだなあ、こいつ」と繰り返して、つまりアイボやアシモやペッパーを見た男の8割は間違いなくこれを考える。男のイメージの基本だ。

 それはアイボやアシモやペッパーを開発したソニーやホンダやソフトバンクの技術者も同様だ。きっと考えている。考えているだけじゃなくて、やつらはきっと密かに作っている。これが悔しい。“CAペパ子”を作ろうと思えばすぐに作れるんだから、やつらはきっと作っている。

 ぼくはペッパーのCMを見るたび、一人地団駄を踏む。

オート・ヨイショ・マシーン

[写真4]逃げ・先行多く、好位差しストレイトガールにもチャンス 【写真:乗峯栄一】

 しかし競馬マスコミ人の端くれとして、もちろん競馬発展ということも考える。これだけロボット技術が発達してきたのなら、我がかねてからの懸案オート・ヨイショ・マシーン(略してAYM)も実現に向かっていいのではないかと思う。これはもう20年ぐらい前から提案しているのだが、誰も見向きもしない。

 旅人に外套を脱がせるには、北風を吹き付けるより、太陽の暖かい光を注ぐことだというのは、2千年も前のイソップ寓話が教えている。

 馬券買おうかどうしようかと迷っている人間に財布の底をはたかせるには、とにかく暖かい言葉を与えないといけない。これを専門にやるロボット・AYMを開発することはJRAにとって未来に向けて展望を開くものになる。

 AYMは「ペッパー」と「アシモ」が合わさったようなヨチヨチ歩きのロボットだ。案内所でレンタル申し込みをすると、一日5千円で貸し出してくれる。

 市役所戸籍係に二十年勤務する山本さんは競馬場に来るのを唯一の楽しみにしているが、どうもスパッと勝負する勇気に欠ける。今日は高松宮記念だ。何とかきっかけが欲しい。山本さんは思い切ってAYMをレンタルすることにする。

 係員はJRA職員であるにもかかわらず、まるで“やりてババア”のように揉み手し、「ご主人さまに喜んでいただけるよう、キバラなアカンねんで」とAYMの頭を撫でる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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