代表合宿から見えたハリルホジッチの志向 厳しい守備と縦に速いスピーディーな攻撃

元川悦子

前日練習で見えた新指揮官のコンセプト

ハリルホジッチ監督はミーティングやトレーニングで、自身の志向するスタイルを選手たちに伝えた 【写真は共同】

 この練習後には、欧州組と国内組に分かれて面談を実施。香川真司が「厳しいリーグでやっているけれど、そこでポジションを勝ち取ってプレーし続けるようにと言われた」と話したように、ハリルホジッチ監督は欧州組に対しては所属クラブでの定位置獲得を強く求めた。国内組には「ロシアW杯を見据えて、もっとフィジカル面を上げていかないといけない」と指摘。Jリーグ屈指の身体能力を誇るFWと言われる川又堅碁でさえ、「3年後を本気で目指すなら、世界の選手に負けないようなフィジカルを身につけないといけない」と神妙な面持ちで語っていた。

 連日の刷り込みで世界レベルへの意識を確実に高める中、選手たちは26日夕方の前日練習に臨んだが、初めてメディア公開されたこのトレーニングにも、新指揮官の志向するサッカースタイルが凝縮されていた。

 ランニング、ウォーミングアップ後のパス練習にしても、アルベルト・ザッケローニ監督や、ハビエル・アギーレ監督の時代に見られた鳥かごのようなボール回しではなく、細長いエリアを使った縦への展開を意図したものだった。その後に行われたハーフコートでの12対12+4GKの練習でも、タッチ数を制限し、狭いエリアで激しくボールを奪い合い、サイドチェンジや長いパスも使いながらゴールを目指す形が繰り返された。そして最後のFW、MF、DFの3グループに分かれた練習では、FWにゴール前でのシュート、MFにミドルシュート、DFにクサビが入った時のクリア練習をさせていた。特にFWのシュート練習では、裏に飛び出した想定でのGKとの1対1、ゴールラインぎりぎりのところからマイナスのクロスが入った状況でシュートを放つなど実戦的な内容が目についた。

「ボールを当てた時の態勢をどうとか、GKを見てしっかりコースを狙うとか、シュートに関しても基本的な話が多かった。監督はそれを意識させたいということ。ただ、今までやってきたものがあるし、簡単に身につくものではないので、とにかくトライして行くことが大事かなと思います」と岡崎はハリルホジッチ監督が選手たちの価値観を少しずつ変えようとしていると説明する。

 わずか4日間の準備期間でその全てが表現できるわけがない。今回のチュニジア戦で変革の一端を見ることができれば、一応の前進と言えるのではないか。球際の激しさ、寄せの厳しさ、攻守の切り替え、ハードワークからのスピーディーかつゴールに直結する攻めといった新指揮官のコンセプトを選手たちには貪欲に体現してもらいたい。

基本フォーメーションは4−2−3−1か

 注目の新体制初陣だが、前日練習の12対12+4GKの練習から読み取ると、基本フォーメーションは4−2−3−1でほぼ間違いないだろう。スタメンに関しては予想が非常に難しいが、このゲーム形式の練習で赤ビブス組に入っていたDF(右から)酒井宏樹、昌子源、槙野智章か水本裕貴、酒井高徳、ボランチ・今野泰幸、山口蛍、右FW永井、左FW宇佐美貴史、トップ下・香川、FW岡崎か大迫勇也といった面々がベースになるという見方もある。

 この顔ぶれであれば、永井と宇佐美がサイドで攻撃的になり過ぎるが、今野と山口の両ボランチには守備面でサポートに行ける力がある。酒井宏と酒井高の両サイドバックもカバーの意識を高めながらプレーできる選手たちだ。センターラインに今野、香川、岡崎と代表経験豊富なプレーヤーを並べている分、新戦力は心強いのではないか。

 スタメンが有力視される永井は岡田武史監督時代の10年1月のイエメン戦(3−2)で国際Aマッチデビューを飾って以来5年ぶりの代表戦となる。「今の代表に足りない背後へのスピードを彼がもたらせるのではないかと思っている。彼が裏へ飛び出せば得点の可能性が高まる。非常に興味深い選手」とハリルホジッチ新監督も19日のメンバー発表時に公言している。縦に速いスタイルへの転換を図る意味でも、この快足アタッカーに懸かる期待は大きい。

若い力の台頭はあるのか?

縦に速いスタイルを目指すハリルホジッチ監督。快足アタッカーの永井にも期待が懸かる 【写真は共同】

 宇佐美と昌子もチュニジア戦のどこかで出番が巡ってくるのではないか。宇佐美はザッケローニ監督時代の11年6月に初招集されながら、ずっと出場機会を与えられなかった。昌子もアギーレ監督時代から毎回のように代表へ呼ばれるようになったが、アジアカップではピッチの外から試合を見るだけで終わった。ガンバ大阪ジュニアユースからまったく違った道のりを経て、再び同じ舞台で戦うようになった同級生がそろってA代表デビューを飾ることになれば、日本サッカー界にとっても明るいニュース。こうしたフレッシュな面々の強烈なアピールが見られれば、日本代表の停滞感を払拭(ふっしょく)する大きなきっかけになりそうだ。

 若い力が台頭してくれば、これまでの常連組の危機感も強まるはず。ザッケローニ、アギーレ両監督時代は、結局のところ主力メンバーの固定が続き、チームの大胆な活性化は実現しなかった。3年後を見据えてアグレッシブに動き始めたハリルホジッチ新監督はその部分にも真正面から取り組んでいくに違いない。キャプテンを長谷部にするのか、新たな選手にするのかを含めて、この初陣からは目が離せない。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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