世界の野球普及で重要な“球の握り方” 元ロッテ・清水直行、NZでの挑戦(3)

清水直行

「点を失う」ことの危機感が足りない

清水氏は第3回WBC予選やU21W杯の結果から、ニュージーランドには「点を失う」ことへの危機感が足りないと指摘する 【(C)SAMURAI JAPAN】

「野球が強い」とは、どういうことか。強打をイメージする人もいるかもしれないが、投手出身でもある私の意識はむしろ守備へと向かう。

「いかに失点を防ぐか」

 試合を想定する上で欠かせない課題だ。確かに野球は「点取りゲーム」だ。相手より多く点を取ると勝利できる。一方で「多く点を取られる」ということは勝てる可能性が低くなる。

「防御力」

 ニュージーランド代表チームの強化における現時点での最大の課題がここにある。

 2012年11月に行われた第3回WBCの予選や、昨年11月に台湾で行われたU21(21歳以下)の国際大会の結果からも明らかだ。幾度となくみられた大量失点。四球だけでなく、野手の悪送球も加わり、あまりに「点を失う」ということへの危機感が足りない。

強化の第一歩は「ボールをしっかり握ること」

軟式野球が普及していない国や地域では、子どもたちがサイズが大きすぎる硬式球を使ってプレーするため、「ボールを正しく握る」ことを覚えていないという 【(C)SAMURAI JAPAN】

 ピッチングも送球も共通することは、「狙って投げる」ことだ。投手で言えば、ストライクゾーンへのコントロールであり、けん制球や野手の送球であれば、相手が取れるところ付近でタッチしやすいところへ「狙って投げること」が必要だ。

 私は、ニュージーランドで指導する際、もう1つ前の段階で1つの重要なキーワードを強調している。それは、「しっかりとボールを握る」ということだ。日本でも小さい子供に教える時と同じである。なぜ、正しく握ることが大切なのか。
 ニュージーランドには軟式野球が普及していない。軟式野球は日本発祥とされ、いまや世界へと裾野を広げている。硬式球に比べて安全であり、大きさも数種類ある。年齢にあわせてボールを使い分けることで正しい握りを習得しやすいというメリットもある。ニュージーランドでは、手の小さい子供たちが、まだサイズの合っていない大きい硬式球でプレーする。上手に握れないのは当然なのだ。

 正しく握れていないままボールを扱い、慣れてしまうと修正することが難しくなる。さらにいえば、ニュージーランドでは夏は野球をするが冬は違うスポーツをするという習慣もある。1年を通して野球のボールを握るという時間が少ない。
 本来は子供のころに習慣付けるべき、ボールをしっかり握るということから強化を始めようと思ったのはこうした理由からだ。このことは、ニュージーランドに限らず、世界で野球を普及させていく上でも重要なことだと思っている。

 さらには、子供たちと一緒にキャッチボールをすることや近くで多くのお手本を見せること。そしてより多くの練習時間の確保でありボールに触れる機会をつくること。そんな現場での活動と環境の整備が、ゆくゆくはニュージーランドランドの「防御力」につながっていくような気がしている。

※ニュージーランドの野球事情と日本の役割を、元ロッテのエース・清水直行氏による手記から考えるシリーズ企画です。
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著者プロフィール

1975年11月24日生まれ 京都府出身。報徳学園高、日本大、東芝府中を経て、99年にドラフト2位で千葉ロッテに入団。2002年から5年連続で規定投球回と2桁勝利を継続し、エースとして活躍。05年は31年ぶりの日本一にも貢献した。04年のアテネ五輪、06年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場。10年から横浜(現・横浜DeNA)。プロ12年間で通算105勝、防御率4.16。現役引退後は、ニュージーランド野球連盟ゼネラルマネジャー補佐、同国の代表統括コーチを務める。

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