ラグビーW杯出場へ…復活を誓うマフィ 日本代表HCから贈られたジャージ

斉藤健仁

トップリーグに衝撃を与えたデビュー

昨季、日本代表デビューを果たしたアマナキ・レレィ・マフィ。現在は脱臼骨折のリハビリに励んでいる 【斉藤健仁】

「フィジカルモンスター」。NTTコミュニケーションズ(以下NTTコム)のチームメイトが付けたあだ名である。そんな彼が再び日本代表にリストアップされた。3月5日、2015年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けた第二次候補選手42名が発表。1月の第一次候補選手から「負傷選手」としてだが、唯一追加されたのが「ナキ」ことNo.8(ナンバーエイト)、アマナキ・レレィ・マフィだった。

 昨年11月には日本代表として初キャップも獲得したマフィ(レレィはミドルネーム)。そのデビューはセンセーショナルだった。

 花園大出身のルーキーは、昨年8月23日のトップリーグの開幕戦では相手を吹き飛ばして豪快なトライを挙げた。「自分の力を示したかった。ワイドでプレーしていたので自分のスピードとパワーを生かしやすかった」。2試合目では、元ニュージーランド(NZ)代表を押しのけて先発出場し、世界的名将の一人であるNTTコムのロブ・ペニーHC(ヘッドコーチ)も「彼なら世界中どこでも通用するほど能力が高い」と太鼓判を押した。

ラグビーと勉強の両立のために日本の大学へ

花園大からNTTコムへ。「NTTコムだけが僕を見つけてくれた」 【斉藤健仁】

 1990年、トンガで16人兄弟の15番目として生まれた。「5歳の頃、兄たちの影響で強制的にラグビーを始めました」。現在、身長189センチ、体重113キロの大型FWだが、高校2年までは体重90キロに満たずWTB(ウイング)だったためランも得意。高校の最終学年からFL(フランカー)やNo.8のバックローに専念し、トンガU18、U19、U20代表でもプレーした。

 高校では会計と物理が得意で「ラグビーをしながら大学に通える」と日本行きを決断した。ただ「日本で強い大学と聞いていました。どうしても僕を呼びたかったみたいで、話を膨らませたことがあったみたい(苦笑)」と振り返るように、関西大学Bリーグの花園大では、なかなか日の目を見なかった。「ストレスに感じたこともありましたが、どちらかというとホームシックの方が強かったです」

 大学3年時、チャンスが巡ってくる。近鉄花園ラグビー場で行われた関西ラグビー祭りの天理大対明治大の前座だった「関西学生南北対抗戦」のメンバーに選出。「自分にとってはビッグマッチでした。もしかしたらスカウトが来ているかもしれない。ラストゲームだと思って臨んだ」(マフィ)という試合で、その身体能力を見せつけた。「トップリーグに入れなかったらトンガに帰るつもりでした。NTTコムだけが僕を見つけてくれた」

「日本は自分の国だと思っている」

エディー・ジョーンズHCの存在も、日本代表を選択する理由のひとつだった 【斉藤健仁】

 日本代表のエディー・ジョーンズHCも、そんなマフィの潜在能力にすぐにほれ込む。以前から「Xファクター(特別な能力を持った選手)、特にFWの選手がいたら招集する」と公言していたように「トップリーグの最初の10分のプレーで非常に感銘を受けた。翌週の東芝戦では最初のキックオフのボールをキャッチし、そのまま3人に当たってオフロードパスをした。その20分後には彼は日本代表のスコッドに入っていた」と、2試合を見ただけで、昨年の9月末の日本代表合宿へ招集した。

 ただ、その合宿でマフィの表情は、秋の日差しの中でもやや曇ったままだった。3年居住をクリアしており、日本代表資格は得ているが、桜のジャージーに袖を通せば「小さい頃から夢だった」というトンガ代表への道を失う。さらに日本代表合宿を終えて1週間経つと、今度はトンガ代表にも選出される。「難しい選択だった」とマフィは振り返る。

「もし順番が逆だったら、違った選択をしたかもしれません。エディー(・ジョーンズHC)は『自分が選んだ道でハッピーになる方を選びなさい』とアドバイスしてくれました。また、両親は『日本代表を選んだとしても、あなたの決断を誇りに思います。どこでプレーしても味方だし、サポートする』と言ってくれましたね」

 悩んだ末、マフィは「日本代表としてW杯に出る」と夢を変えた。結婚を約束している日本人女性もおり、日本に住んで5年目を迎えて「日本でそのまま暮らしたかったし、日本は自分の国だと思っている」、また「エディーの下でラグビーがしたい」という理由もあり日本代表でプレーすることを選んだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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