モータースポーツの役割とは何か?=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第39回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

技術面は進化したが……

モータースポーツをいかに活用するか? 今後の自動車メーカーが抱える大きなテーマだ 【LAT】

 今年もモータースポーツのシーズン開幕が近づいて、関係者やファンはソワソワしていることだろう。ホンダがF1に参戦し、トヨタはWEC(世界耐久選手権)挑戦に加えてWRC(世界ラリー選手権)参戦の準備も始めた。ニッサンもWECに出てくる。国内もGTやスーパーフォーミュラの話題でにぎわっている。モータースポーツの人気がないと言われて久しいが、ここに来てまたぞろ人気が戻ってきそうな気配がする。なんと言っても、ホンダのF1復帰とトヨタのWRC参戦準備が大きな起爆剤になっているように思う。

 こうして再び自動車メーカーがモータースポーツにやる気を見せてきたのはうれしい。だが、どうも自動車メーカーのモータースポーツに対する姿勢は20年前、30年前と少しも変わっていないように思え、その点だけは私に不満を抱かせる原因になっている。もちろん、技術に関しては20年前、30年前と現在のそれは隔世の感があるので、技術面においてはなすべきことは大きく変化している。量産車に環境対策エンジンが搭載されている現在、モータースポーツを戦うクルマの技術もその流れにそっぽを向くことはできない。FIA(国際自動車連盟)もF1やWECにはハイブリッドなどのシステム搭載を規則で決めた。こうした点は、20年、30年前とは違う点だ。

PRにどう生かすか?

 しかし、私が言いたいのは時代とともに進化する技術ではなく、ソフトと呼ばれるPR、マーケティングなどを主体とした活動だ。こちら方面では各メーカーなりの活動が行われているが、それほど新味がない。いずれも個々の自動車メーカーの自社のルールにのっとって展開される活動ばかりで、より広く世の中の流れをくんだ活動がなされていないように思うのだ。モータースポーツという対象を絞らないカテゴリーであるのに、その価値を高めることもせず、積極的に活用しようともしない。本当に残念でガッカリする。

 では一体どうすればいいのだろう? 正直に言って私も明確な答えは持ち合わせていない。今、考慮中だ。自慢できるようなアイデアが浮かんできているわけではない。それでも、せっかくモータースポーツという、裾野が広く、歴史もあり、各界に力を持つ人が多く関わるこの分野だけに、何か価値のある動きができないものか、毎日必死で考えている。

垣根を超えた取り組みを

 ただ、明確に今言えることが1つだけある。モータースポーツ活動を続ける自動車メーカーが垣根を取っ払い、手を組んで、何かやってほしいということだ。アイデアを出し合って、少しでも世の中のためになることができればこれほどうれしいことはない。例えばFIAが行うさまざまな世界規模の交通安全運動を支援したり、食糧危機の国への支援に乗り出したりすることに価値を見つけることができないか。そこに日本の自動車メーカーが手をつないで作り上げたモータースポーツを基盤とする組織の存在があるなら、喜ばしいばかりだ。

 F1テストの模様やホンダへの叱咤(しった)激励の原稿を期待した人には申し訳ないが、今回は私がずっと持ち続けている希望について書いた。私ひとりでは何もできないが、自動車メーカーがアイデアを出し合えば、やらなければならないことが見つかるはずだ。クルマを売るだけではなく、またモータースポーツで勝敗に一喜一憂するだけではなく、せっかくモータースポーツというフィールドで同じ目標を持つ者同士、ぜひ価値ある活動を始めようではないか。一体、何を? それを考えるのだって楽しいじゃないですか。

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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