レイソルに浸透し出した吉田達磨イズム 国内外のタイトル獲得目指して好発進

鈴木潤

鍵となるのは局面を打開できる個の力

今オフにVVVフェンロから柏へ復帰した大津に懸かる期待は大きい 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 オフの補強の中で今シーズンの鍵を握ると思われる新戦力が、ヴァンフォーレ甲府から期限付き移籍で獲得したクリスティアーノと、VVVフェンロから柏復帰となった大津祐樹である。

 柏U−18の試合でも度々見られるこのスタイルのサッカーが陥りがちな展開、例えばボールを保持して相手を敵陣深くまで押し込むが、パスをつなぐばかりで相手もそのリズムに慣れてしまい、停滞感に捉われるケースがある。その停滞感を打破し、流れを変えるのは強烈な個の力であることが多い。チョンブリ戦では、1人で16本のシュートを放ち、それがことごとく枠を逸れたという課題は見られたが、クリスティアーノのパワフルなドリブルとフィジカルの強さは間違いなく攻撃のアクセントになっていた。そして、フットサル仕込みの足技と攻撃のアイデア、そしてダイナミックなドリブルを武器とする大津もまた、個の能力で局面を打開できる選手である。

 大津の場合はさらに、人を引き付けるスター性と彼独特の華やかさによって、「大津なら、なんとかしてくれる」という雰囲気をスタンドから醸し出せる稀有な能力を兼備する。チョンブリ戦で大津が出場したのは延長後半8分からで、時間はわずか7分ほど。しかし、大津が出てきた時のスタンドの盛り上がりとサポーターからの大歓声は、明らかにチームの士気を上げ、スタジアムに取り巻くシュートを放てどもゴールにつながらない嫌な雰囲気を一変させた。限られた時間の中で、大津のドリブルは何度もスタンドを沸かし、実際に大津投入直後の延長後半10分にレアンドロの決勝弾が生まれている。そのゴールにつながったコーナーキックは大津の仕掛けから獲得したものだった。

目標はネルシーニョが残した結果

 いずれにせよ、1カ月という短い準備期間の中で、ある程度新戦術を浸透させ、この時期なりの課題を露呈しながら「ACLに出るためだけの試合」と前日の会見で吉田監督が位置付けていたプレーオフを突破した。アジア制覇をもくろむ柏にとっては、とにかくここを勝たなければ何も始まらなかった。今回のACL本戦の出場権獲得は、2年前の大会で柏を苦しめた過密日程を強いられることを意味するが、「JリーグでACLへの気持ちが強いのはレイソルだと自負している。過密日程は強いチームの証」と、工藤ははばかることなく口にしている。

 吉田監督は「優勝」という言葉を出さず、「良いチームを作る」「良い仕事をする」と自身が抱く目標を抽象的に語るため、優勝への意識が希薄と誤解される場合もあるが、昨年12月17日の就任会見では、「やり方は違うが、ネルシーニョが残してくれた結果が僕の目指すもの」と明らかにしており、口に出さないだけで当然のことながらタイトル獲得を目標に据える。Jリーグ、天皇杯、ヤマザキナビスコカップの国内3大大会に加え、そこにACLも視野に入る。

 トップチームからU−12までの全カテゴリーが同じサッカーを展開する、まるで海外のクラブを思わせる画期的なスタイルと、“ボールとスペースを支配する攻撃的なサッカー”で、2015年の柏は果たして国内外で旋風を巻き起こせるのか。“吉田達磨レイソル”の航海は、始まったばかりだ。

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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