レイソルに浸透し出した吉田達磨イズム 国内外のタイトル獲得目指して好発進

鈴木潤

延長戦の末に勝利しACL本戦へ

ACLプレーオフを制して本戦出場を決めた柏。今季初戦で迎えた大一番で見事結果を残した 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 17日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区プレーオフを戦った柏レイソルは、タイのチョンブリを延長戦の末に3−2で下し、来週から開幕するACL本戦への出場権を手にした。

 今シーズンから就任した吉田達磨監督が標榜する新たなスタイルで終始チョンブリを押し込み、放ったシュート数はチョンブリの6本に対し、柏が41本。勝ったとはいえ、キャプテンの大谷秀和が「自分たちで首を絞めてしまった試合」と反省の弁を述べたように、ここまで苦戦を強いられたのは、数々の決定機を逸し続けたことに他ならなかった。

 だが2月半ばというのは、例年ならばプレシーズンマッチを何試合もこなして3月上旬のJリーグ開幕へ向けて調整を続けている段階である。その時期にシーズン初の公式戦を戦い、しかもACLのプレーオフという大一番だ。準備不足以外にも、試合勘、コンディション、プレッシャーなど、さまざまな面で障害があったと思われる。裏を返せば、その状況下で41本もフィニッシュの場面を作ることができた「攻撃の形」に関しては素直に評価していいだろう。フィニッシュの精度と、あっさりと失点した守備面には課題があると認識しながらも、「1カ月という決して長い準備期間ではなかった中で、新しい監督の下、やろうとする部分は出せた」(大谷)というのが選手たちの見方だ。

全カテゴリーで共有する吉田監督のコンセプト

今シーズンから柏の監督に就任した吉田。アカデミーコーチ時代から一貫した指導で、チームにコンセプトを植えつけてきた 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 吉田監督が目指すのは、自分たちがボールを保持する攻撃的なサッカーである。すでに柏のアカデミーではU−12からU−18まで共通したコンセプトの下、同じサッカーを展開しているが、そもそもそれはアカデミーコーチ時代の吉田監督が確立し、工藤壮人、武富孝介、酒井宏樹(現ハノーファー96/ドイツ)ら1990年生まれの代、いわゆる“柏アカデミーのゴールデンエイジ”が具現化したスタイルだった。後に“ゴールデンエイジ”をモデルケースに、アカデミー全体がコンセプトを共有し、一貫化へ進んだ背景がある。すなわち、アカデミーのコンセプト一貫化の中心人物こそ吉田監督であり、彼のトップチームの監督就任によって、柏は全カテゴリーが同じサッカーをする組織に生まれ変わった。

 以下は、1月15日のチーム始動時のミーティングにて、吉田監督が選手に伝えた言葉だ。

「選手には『相手を壊しにいくようなサッカーをしよう』と話しました。ボールは1つしかないから、攻めるのであればボールを持とうとなるし、相手ボールになれば奪おうとなる。たったそれだけのことを明確に伝えました」

 吉田監督のスタイルは、常々“ポゼッションサッカー”や“パスサッカー”と表現されるが、吉田監督自身がその表現を用いることはない。もちろん、自分たちが主導権を握って攻撃を仕掛けていくからにはボールを保持し続けなければならないため、パスが基軸となるのは間違いない。しかし、「すべてがパス、パスというわけではなく、裏にスペースが空いているなら、そこへシンプルにボールを送ることはタツさん(吉田監督)から言われている」(大谷)と、相手の背後に広大なスペースがあり、そこを突いた方が効率的に攻撃を仕掛けられるのであれば、パスだけにこだわらず、状況に応じてロングフィードも使う。あえて言葉で表現するのなら、“ポゼッションサッカー”や“パスサッカー”ではなく、“ボールとスペースを支配するサッカー”といった方が適切である。

 始動からACLプレーオフまで、わずか1カ月という短い期間に、吉田監督の詳細かつ明確な指示と、選手たちの前向きな取り組みによって、新戦術の浸透は思いのほか早く進んだ。そのため新戦力に関しても、新しい選手を獲得するというより、吉田監督のサッカーを知る武富、中川寛斗、山中亮輔ら柏アカデミー出身選手を呼び戻す形が目立った。

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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