シンクロに初の“男子”日本代表選手!
元『ウォーターボーイズ』が世界に挑む

海外では珍しくない「男子シンクロ」

今年7月の世界選手権から始まるシンクロ混成デュエットの選考会が行われ、男子の安部(右)、女子の足立(左)がそれぞれ1位となった
今年7月の世界選手権から始まるシンクロ混成デュエットの選考会が行われ、男子の安部(右)、女子の足立(左)がそれぞれ1位となった【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2011年の「メンズカップ」で優勝した時にも泳いだルーティン『オペラ座の怪人』で安部篤史(32歳、トゥリトネス水泳部)が見せたのは、見事なソリストの泳ぎだった。


 2月15日、国立スポーツ科学センターで行われた世界水泳選手権(7月、ロシア・カザン)のシンクロナイズドスイミング・ミックスデュエット日本代表選考会には、多くの報道陣が集まった。注目が集まったのは、『男子のシンクロ』がまだ日本では珍しいものだからだろう。


 しかし、実は海外での男子シンクロの歴史は長い。現在日本代表の振り付けも担当するステファン・メルモン氏は1989年、母国フランスの国内選手権でデュエットのチャンピオンとなっている。また、米国にもビル・メイという有名な選手がおり、女子の米国代表・コズロワとデュエットを組み、国内選手権で優勝している。


 ビル・メイは、ミックスデュエットを正式種目として承認するよう国際水泳連盟(FINA)に働きかけてきた。今回の世界選手権からFINAがミックスデュエットを正式種目としたのは、まだレベルにばらつきのある男子でも女子と組むことで一定のレベルを保てるという思惑からと見られるが、そこに至るまでには男子選手たちの長年にわたる働きかけがあったのだ。

井村コーチも素質に太鼓判

日本代表コーチの井村雅代氏も安部の演技を見て、その素質を高く評価している
日本代表コーチの井村雅代氏も安部の演技を見て、その素質を高く評価している【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 今回の選考会で1位となり、日本初のシンクロ男子代表選手となることがほぼ確実となった安部も、ここに至るまでの男子シンクロの歴史をよく理解している。前述した「メンズカップ」で安部は09年、11年と連覇を果たしているが、「メンズカップ」はFINAが主催する大会ではないのだ。

「十何年間働きかけてくださっていた海外のシンクロ男性選手がいたから、こういうことになった。僕はそういう方々に、本当に感謝するしかない」


 安部は競泳選手として全国中学生大会のリレー種目で4位に入った実績がある。競泳を引退していた大学1年生の夏に映画「WATER BOYS(ウォーターボーイズ)」に出会い、その世界にひきこまれて10回も繰り返して見たという。そしてシンクロパフォーマンスを行う「トゥリトネス」に参加、中心メンバーとしてショーを行ってきた。


「スタミナ、選手としてのキャリア、技術、スピード感と課題は山積み。マイナスからのスタート」と語る安部だが、日本代表コーチの井村雅代氏は「クラシックバレエ的な雰囲気があり、ショーをやっておられたから、メリハリは身に着いたもの」と見ている。また日本代表チームリーダーの金子正子氏も、規定のエレメンツの練習は必要だが、鍛錬すれば安部には十分にエレメンツをこなせる実力がある、と評価している。


 ミックスデュエットは、井村氏によれば従来の女子同士で組むデュエットとは違う芸術性、表現が求められるという。その意味でミックスデュエットは「ショー、ステージというところで培ってきたものを出せたら」と語る安部の魅力が十分生かせる種目とも言える。

ミックスデュエットは「より芸術に走る種目」

初の大舞台となる世界選手権で足立(左)と安部は、どんな演技を披露してくれるか、今から楽しみである
初の大舞台となる世界選手権で足立(左)と安部は、どんな演技を披露してくれるか、今から楽しみである【沢田聡子】

 女子の選考で1位となったのは、元日本代表であり、引退を経て今回のミックスデュエット選考会のために復帰した足立夢実(国士舘シンクロク)だ。安部のパートナーとなると思われる足立も表現力に独特のものがある選手で、日本代表ソリストとしてその個性を世界の舞台で見せてきた。


 安部・足立の組み合わせとなることが濃厚な日本代表のミックスデュエットは、芸術性に富んだペアになりそうだ。足立自身「私の中のミックスデュエットのイメージは、女子のデュエットとは少し違い、技術よりも、より芸術に走る種目だと思っているので、不安はないです」と語っている。


 また新種目としてのミックスデュエットについても、足立は意欲的だ。

「今まで日本でやったことがない、これから創り上げていくものだと思うので、それにかかわれるのはすごくうれしい」


 パートナーとなる安部の演技は練習から見ていたといい、「選考会の演技はのっていて、曲かけ練習より生き生きと泳いでいた」という感想で「本番に強い」と印象を述べている。


 世界選手権を「はるか彼方のステージ」と語る安部は、選考会に臨むにあたり、仕事との両立についての不安もあり決断までに時間がかかったという。だが、トゥリトネスの不破央代表に「せっかくやってきたこの仕事を無駄にしないため、お世話になった方々に恩返しするため、挑戦するべき」と言われ決心したという。


 安部にとり今夏の世界選手権は、長く続けてきたシンクロを世界中の人々に披露する大きな舞台となる。クライマックスで、悩んだ末にショーが行われているプールに飛び込んだ映画「ウォーターボーイズ」の主人公のように、安部は世界選手権でさらに広がる世界と自信を手にするに違いない。

沢田聡子

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(シンクロナイズドスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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