花より実を取った松本山雅FC 3つの課題克服でJ1定着を目指す

多岐太宿

2シャドーの人材は昨季を凌駕

得点源の相次ぐ流出は痛手だが、前田直輝ら多士済々なアタッカーを補強した 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 次いで『前線の補強(得点力アップ)』。昨季リーグ戦19得点を挙げた船山が川崎フロンターレに新天地を求め、7得点の山本もベガルタ仙台からの期限付き移籍が終了。DFながら6得点を挙げていた犬飼を含め、得点源が相次いで流出した点は率直に痛手だ。先述の新加入選手発表記者会見において得点力ダウンに関する質問が記者から挙がったのも、むべなるかな。しかし指揮官は「別れた彼のことをいつまでも考えても仕方がない」とまず記者の笑いを誘った後、「昨季のチーム力よりも上がっていることを、開幕してから証明したい」と力強く述べる。その言葉通り、新加入のアタッカー陣は多士済々だ。特に2シャドーの人材は昨季を凌駕(りょうが)する。J2屈指の得点感覚を持つ池元友樹(ギラヴァンツ北九州から加入)、弾丸ドリブラーの石原崇兆(岡山から加入)、テクニックに長けた前田直輝(東京ヴェルディから加入)といった面々が、岩上祐三ら既存選手と競うことになる。当然、1トップの競争も激化している。フラメンゴやパルメイラスなどブラジルのビッグクラブでプレーしてきたオビナ(アメリカMG/ブラジルから加入)と背番号10を背負う塩沢勝吾を軸に、先述のメンバーもこの争いに参戦することになろう。

 また、新加入選手には180センチ超の大型選手が多いことも特徴の一つだ。松本といえば、昨季のチーム総得点(65得点)のうち半数以上の34得点がセットプレーから生まれている。今季もキッカーを任される可能性の高い岩上が「(今季の新加入選手は)大きい選手が多く、集合した時に『俺って小さいな!』と感じました」と苦笑しつつ、「セットプレーで得点できれば簡単だし、ターゲットに合わせていきたい」と昨季のチームの武器だったセットプレーにさらなる磨きをかけるべく燃えている。事実、浜松開誠館高との練習試合では、岩上が蹴った右CKを酒井が頭で合わせて追加点を挙げている。J1の舞台でも得点パターンを確立できれば、ミッション達成も自ずと近づくことになろう。

チーム内の競争が激化

複数ポジションをこなす那須川(右)らの加入で、戦術の幅も広がりそうだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 最後のポイントは『チーム力の底上げ』だ。J1とJ2は試合数こそ大きな違いはないが、リーグ戦とヤマザキナビスコカップを並行して戦わねばならない。4月など実に7試合の公式戦が組まれる過密日程で、昨季のように先発メンバーを固定して戦うことは難しい。しかし、今季の出場争いは反町体制下で最も激しくなりそうだ。J1上位クラブのようにターンオーバーができるだけの戦力を抱えることはできなくても、全てのポジションに確固たるライバルがいるという状況はこれまでにはなかったからだ。例えば昨季のシャドーのポジションを見ても、椎名伸志、道上隼人らサブメンバーが日を追うごとに成長したものの、船山と岩上の牙城を崩すには至らなかった。

 チーム内競争の激化は副産物も産み出す。「途中投入でチームの流れを大きく変えられる選手は残念ながらいなかった」と指揮官が振り返るように、昨季はゴールやアシストなど目に見える形で結果を残せるスーパーサブが不在だった。しかし、「途中出場からでも流れを変えられる自信はあります」と口にする石原のように、それぞれ他にないストロングポイントを持っている選手たちが途中投入されることで、それまでの試合の流れをガラリと変えることが期待できる。また、既存選手そして新加入選手の多くが複数ポジションをこなす点も大きい。那須川将大(徳島ヴォルティスから加入)は左ウイングバックの他に左CBをこなし、ドリバ(トンベンセ/ブラジルから加入)は攻撃的ボランチが本職ながら、右アウトサイドでのプレー経験がある。試合状況や展開に応じた戦術の幅も広がりそうで、良い意味で指揮官の頭を悩ませてくれるはずだ。

指揮官の舵取りに注目

補強した選手をどう生かすのか。反町監督の舵取りに注目だ 【写真:アフロスポーツ】

 1次キャンプを終えた反町監督は囲み取材で、「けが人が少ないことは良いこと。『順調に進んでいる』と書いておいて下さい」と笑みを見せた。昨季の開幕前キャンプではその激しさのあまり、田中隼磨以外の新加入選手が次々にコンディションを崩した。その反省を踏まえて、練習メニューは考慮したと言うが、「楽なキャンプはキャンプではない」とサラリと語る。しばらくは選手たちにとって地獄の日々となりそうだが、土台工事で手抜きは許されない。松本の売りはハードワークとトランジションだけに、走り勝つだけのフィジカルスキルは徹底的に鍛え上げなければいけない。また、新加入選手と既存選手を一つの組織にまとめあげる作業も並行して行わねばならない。ここは百戦錬磨の指揮官の舵取りに注目だ。

 15年は、前身の山雅クラブ時代から数えてクラブ創立50周年となるメモリアルイヤー。記念すべき年にJ1という新たなる舞台に挑む松本の戦いに括目せずにはいられない。

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著者プロフィール

1976年生まれ、信州産。物書きを志し、地域リーグで戦っていた松本山雅FCのウォッチを開始。長い雌伏(兼業ライター活動)を経て、2012年3月より筆一本の生活に。サッカー以外の原稿も断ることなく、紙、雑誌、ウェブサイト問わず寄稿する雑食性ライター。信州に根を張って活動中!

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