あっけなく訪れたアギーレとの別れ 注視したい今後のJFAの体制と後任人事

宇都宮徹壱

指導者としてのアギーレに感じた魅力と可能性

指導者としてアギーレは高いマネジメント能力や指導力を発揮していた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 いずれにしても、われわれはアギーレ体制の完成形を18年のロシアで見ることなく、このメキシコ人指揮官と唐突に別れなければならなくなってしまった。7年前のオシム退任とは、また違った意味での喪失感を覚えずにはいられない。アギーレの4−3−3のスタイルが、今後どのような進化を遂げ、どんな選手が中心選手となっていき、そして次のW杯でどこまで勝ち進むことができるのか、いち取材者として本当に楽しみにしていた。

 確かに、アジアカップではベスト8止まりという結果に終わった。結果については、やはり不満は残る。しかしそれ以上に、アギーレという指導者には、個人的には大きな魅力と可能性を感じていた。アジアカップ直前、八百長疑惑で世論が揺れていたときには、選手の意思統一とチームの結束を短期間で成し遂げた。また大会期間中では、選手個々の守備意識が非常に高まっていたこともうれしい発見であった。そうしたマネジメント能力や指導力は、これまでの代表監督と比較して、極めて高いレベルにあったと思っている。

 一方でアギーレの采配については、時おり疑問を感じることも少なくなかった。たとえば、アジアカップの4試合連続でスタメンを完全に固定したことについては、もう少し選手起用に幅を持たせて選手の疲労を分散させるべきだったと今でも思っている。それでも、本来は柔軟性と引き出しの多さに定評があるアギーレのことだ。W杯予選では、また違った戦い方を見せてくれるだろうという期待感はあった。

 選手として1回、監督として2回、W杯に出場しており、メキシコやスペインのリーグでも「39年間、毎週末、1000試合以上戦い続けた」(アギーレ)。これほど百戦錬磨の指導者を、ヨーロッパから連れてくるのは容易なことではない。その意味でも、今回の解任という結果は、極めて残念なものであったといえよう。とはいえ、われわれはそうした未練を断ち切って、今後のことを考えていかなければならない。そこで気になるのが、後任監督の人選。技術委員会は、この件についてどのような見解を持っているのだろうか。

後任選びのリミットは3月である必要なし

後任の監督は霜田技術委員長らが中心となり、技術委員会で決定する 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 大仁会長の会見のあと、霜田技術委員長が囲み取材に応じている。そこで語られた後任人事のポイントは、(1)日本代表のコンセプト、ビジョンを引き継ぐことができること、(2)経験が豊かで結果を残せる監督であること、(3)Jリーグの現役監督を引き抜くことは考えていないこと。また直接的な言及はなかったものの、今回の反省を踏まえて(4)相手の顔がよく見えること──すなわち、過去にJリーグで実績がある日本サッカー界に近い人物、という条件も含めてよいのかもしれない。実際、後任人事を急がなければならないJFAの事情を勘案するなら、この(4)が大きな意味を持ってくる可能性はある。

 現時点で「後任候補」としてメディアが挙げている名前は、元名古屋グランパス監督のドラガン・ストイコビッチ、元ブラジル代表監督でジュビロ磐田でも指揮した経験を持つルイス・フェリペ・スコラーリ、元セレッソ大阪監督のレヴィー・クルピ、元鹿島アントラーズ監督のオズワルド・オリヴェイラ、といったところ。これらの指導者は、いずれも(4)の条件は満たしているものの、(1)と(2)に関してはいずれも決め手を欠いているといわざるを得ない。W杯での経験が豊かなスコラーリにしても、攻撃を特定の選手に依存していたサッカーが、そのまま日本代表に当てはまるとは考えにくい。

 個人的には、3月後半の国際親善試合(27日チュニジア戦、31日ウズベキスタン戦)に間に合わせる必要はまったくないと考えている。内部昇格でもない限り、監督人事はそれなりの時間がかかるものであり、W杯出場を目指す一国の代表監督ならなおさらであろう。また、欧州がシーズンたけなわであることを考慮しても、W杯アジア予選が始まる6月をリミットとして、じっくり腰を据えて人選を絞り込むべきだと思う。技術委員会には、目先の興行に惑わされることなく、18年とそれ以降をしっかり見据えながら、後任人事にあたってほしいところだ。

 最後に、この日は姿を現さなかった原専務理事について言及しておきたい。おそらく今回の任命責任を受けて、何らかの処分を受けるのは間違いないだろう。この人については、昨年のW杯での惨敗以降、何かと批判を受けることが多かったのは事実である。それでも私は、技術委員会主導で代表監督をリストアップする体制を確立したこと、そして今回の件では推定無罪の観点から身を挺してアギーレを守ったこと、以上2点については高く評価すべきだと思っている。確かに後任監督人事も重要だが、今後のJFAの体制がどのように変化するのか、そちらの方もファンは注視しておく必要があるだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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