NYに豊潤な時間を与えたイチロー 期間限定ロマンスを経てフロリダへ

杉浦大介

ほとんど変わらなかったイチロー人気

2013年8月、ホームで日米通算4000本安打を達成。ニューヨークのファンはスタンディングオベーションでイチローを祝福した 【Getty Images】

 現地時間1月23日、マーリンズとイチローは1年200万ドル(約2億4000万円)契約で合意し、希代のヒットメーカーはフロリダの地で現役続行すると複数の現地メディアが報じた。

 それはつまり、過去2年半を過ごしたニューヨークでの日々が正式に終わったことを指し示す。“時代”と呼ぶには短すぎるが、のちにそのキャリアを振り返ったときに重要な意味を持つであろうチャプターが幕を閉じたことになる。

 ヤンキースでは2012年途中から14年までに出場した360試合で、打率2割8分1厘、通算311安打、49盗塁。存在感とインパクトは数字が示す以上に大きかったようにも思える。12年の移籍後には67試合で打率3割2分2厘と打棒が復活し、13年には地元で日米通算4000本安打に到達し、14年もチーム内2位の打率を残し……そして何より、移籍当初からニューヨークを揺るがした人気は最後までほとんど変わらなかった。

「イチローの存在を熱狂的に迎えたファンの反応には驚かされた」

 12年のシーズンが終わったあと、『ニューヨーク・ポスト』紙のケン・デビッドフ記者がそう述べていたのを思い出す。

 デビッドフ氏は必ずしも常にイチローに好意的な記者ではなかったが、それでもその人気の高さは新鮮な驚きだった様子。筆者がイチローのニューヨークでの日々を思い返しても、真っ先に頭に浮かぶのは地元ファンから温かく受け入れられ続けたことである。

“期間限定”だから輝いたイチローとヤンキースの関係

 12年7月のヤンキースデビューの歓待はほとんど“フィーバー”に近かったし、当初の騒ぎが収まった後も、イチローへのウエルカム・ムードはしばらく続いていった。最後の1年となった昨季にしても、やや小粒化した上にケガ人が多かったチーム内で、地元ファンからの声援の総量はデレク・ジーターに次ぐレベルだった。

「(過去に)ここに来た選手がどう迎えられたのか知らないから、(自分がどう迎えられるか)予想はできなかったです。比較の対象がないので、難しいところですけど……。なるべく冷められないようにしなきゃなと思いますね」
 
 移籍直後、イチロー本人にファンの反応について尋ねると、しばらく考えた末にそんな答えが返ってきたことがあった。
 時は流れ、もちろん少なからず沈静化したものの、結局は最後までチーム有数の人気選手であり続けた。移り気なことで知られるマンハッタンにおいて、その事実は特筆すべきことだったと言ってよい。

“イチローとニューヨークの関係は、幸運な人ならもしかしたら経験がある『一夏のロマンス』に近い類いのものなのかもしれない
 長続きはしないと心のどこかで気付いていても、止めるのはもったいなさ過ぎる。将来へのしがらみがないゆえに、相手に足りない部分など目に入らず、おそらくは生涯忘れない良い思い出ばかりが残る……”

 12年の移籍直後に筆者はそう書いたが、実際にはイチローはそのシーズン終了後に契約延長し、両者の縁は2年半に渡って続く立派な“ニューヨーク・ロマンス”になった。しかし、それでも、いま振り返ってみれば、イチローとヤンキースの関係はやはり“期間限定付き”だったがゆえに輝くものだったようにも思えてくる。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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