メルボルンでのノーマッチデー 日々是亜州杯2015(1月21日)

宇都宮徹壱

グループリーグで明らかになった中東勢の低迷

国内最大のスタジアム、メルボルン・クリケット・グラウンド。09年のW杯予選もここで行われている 【宇都宮徹壱】

 大会13日目。今日は今大会が開幕して初めてのノーマッチデーである。昨日(20日)、ヨルダンに2−0で勝利してグループリーグ1位通過を果たした日本代表は、この日のうちに23日の準々決勝(対UAE戦)の会場であるシドニーへ移動。しかし私は、この日もメルボルンにとどまっていた。仮に日本が2位通過となっていれば、エアチケットをシドニー行きではなく、キャンベラ行きに変更しなければならなかった。そのため、日程に余裕を持たせたほうがよいと判断したわけだが、日本が1位通過となったためキャンベラ行きは回避された。この機会に、オーストラリアの首都を見ておきたいという若干の好奇心はあったものの、煩雑な作業から開放されたのはありがたい限りだ。

 かくして、今大会のベスト8が出そろった。22日と23日に行われる準々決勝のカードは、韓国対ウズベキスタン(メルボルン)、中国対オーストラリア(ブリスベン)、日本対UAE(シドニー)、そしてイラン対イラク(キャンベラ)である。私は日本代表の試合しか取材できないが、他の3試合も非常に魅力的なカードである。とりわけ中国対オーストラリアは、ホスト国のサポーターと華僑のサポーターが大挙して押し寄せ、移民国家オーストラリアの“現在”をあぶり出すような光景が見られることだろう。ちなみに現地のあるオッズによれば、オーストラリア勝利が「1.62」、中国勝利が「5.00」、引き分け(PK戦含む)が「3.75」となっていた(いずれも豪ドル)。

 一方で今大会の傾向として顕著となったのが、中東勢の低迷ぶりである。グループリーグ敗退となったのは、クウェート、オマーン、北朝鮮、サウジアラビア、カタール、バーレーン、パレスチナ、ヨルダン。何と、8チーム中7チームが中東のチームである。「かつての盟主」サウジについては先のコラムで触れたが、前回ワールドカップ(W杯)予選でプレーオフに進出したヨルダン、そして自国で開催される2022年W杯に向けて選手育成に余念のないカタールが、いずれも3試合を終えて大会を去るのは、意外といえば意外であった。アジアの勢力地図の変化については、いずれあらためて考察することにしたい。

メルボルンでクリケットを観戦する

クリケットの国内リーグを観戦。ルールが分からなくても十分に楽しめるような演出が施されている 【宇都宮徹壱】

 さて、メルボルン滞在もこの日が最後。当分、この地を訪れることはなさそうなので、どこか観光でもしようかと思っていたら、同業者の友人から「クリケットを観戦しませんか?」というお誘いを受けた。クリケットといえば、試合中にお茶を飲んだりして、だらだらやっているイメージが強い。どうしようかなと思っていると、友人いわく「国内リーグのレギュレーションだと、わりとスピーディーで楽しめると思います」とのこと。それならということで、会場のMCG(メルボルン・クリケット・グラウンド)に向かった。ここは09年のW杯予選で、日本がオーストラリアと対戦したときにも使用されていて、収容人数10万人という国内最大の競技施設である。

 クリケットとは英国発祥の野球のような球技で、インド、パキスタン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどの英連邦諸国では絶大な人気を誇るスポーツである。試合方式はいくつかのバリエーションがあり、「テストクリケット」と呼ばれるレギュレーションになると5日間にわたって行われる。ただし試合時間が長すぎるのは、プロの興行としては成り立ちにくい。そこで考案されたのが「トゥエンティ20」というフォーマット。両チーム1イニングずつ、75分間の間に攻撃を行い、合計2時間半で終わるようになっている。このルールであれば、平日のナイトゲームも可能になるし、テレビ中継のコンテンツとしても十分に成立する。

 正直、ルールがよく分からないまま観戦したが、それでも十分に雰囲気を楽しむことができた。長打やファインプレーが出るたびに、ノリの良いBGMが流れ、演出用の炎が吹き出し、さらには花火も打ち上がる。試合中でもマスコットは子供たちに愛嬌を振りまき、さらには大道芸人までもが登場していた。ちょっとやり過ぎかなと思える演出もあったが、私のような門外漢や子供たちを飽きさせない工夫が随所に施されているのには感心させられた。ちなみにチケット代は20豪ドル(約2000円)。Jリーグ観戦とあまり変わらない。入場者数は、巨大なMCGの4割強が埋まっていたので、少なくとも4万人以上は入っていたと思う。現在、オーストラリアの学校は夏休みに入っているが、それでも平日の夜に4万人以上の観客を集めるというのは、この競技がしっかりと根付いている証左と言えるだろう。

 ところでMCGの周辺には、この国のスポーツ界のレジェンドたちの銅像があちこちに点在しているのだが、そのほとんどが1956年のメルボルン五輪で活躍した陸上選手か、クリケットやオーストラリアン・フットボールの選手ばかり。残念ながらサッカー選手は皆無であった。近年、サッカー人気が高まってきていると言われるオーストラリア。だが、人気と伝統では、クリケットやラグビー、そしてオーストラリアン・フットボールにはまだまだ及ばない印象だ。MCGにティム・ケーヒルの像が建つのは、果たしていつのことであろうか。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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