星稜らしさが表れた準決勝の快勝劇 本田圭佑の“おさがり”使用の杉原も得点

大島和人

チームの2点目を奪った杉原(左)。中学時代からの仲間・森山のクロスから見事にネットを揺らした 【写真は共同】

 10日に第93回全国高校サッカー選手権大会・準決勝が行われ、星稜(石川)が日大藤沢(神奈川)に3−0の快勝を収め決勝進出を決めた。

 準決勝の星稜は前線4選手のうち、3人が名古屋グランパスU−15出身だった。

 森山泰希は昨年の選手権決勝で先発もしているセンターFW。左MFに入った藤島樹騎也も、初戦から際立つ活躍を見せている選手だ。しかし右MF杉原啓太は紆余(うよ)曲折を乗り越えてつかんだ大会初先発だった。

 杉原は179センチの長身と、高い技巧を持つエレガントなレフティーだ。昨夏の高校総体(インターハイ)も、2年生ながら出場機会を得てベスト4入りに貢献している。しかし昨年の選手権はメンバーを外れ、スタンドから応援する側に回った。今季も「選手権の県予選は先発が無かった」という、不遇が続いていた。

 木原力斗監督代行は杉原を先発で起用した狙いについて「高さ対策として右に身長の高い選手を置きたかった。試合に出ることができていなかったけれど、準備はしていたし調子も良かった」と説明する。2年生ながらU−16日本代表で活躍したMF阿部雅志を押しのけての抜てきだった。彼が指揮官の期待に応え、“右から中に切れ込んでフィニッシュに絡む”という左利きの強みを生かしたのは35分だ。

 杉原は名古屋U−15時代からの仲間である森山の左クロスをコントロールし、左足でたたき込んだ。「(一緒にプレーするのが)6年目なので『ここに動くだろうな』と分かっている」(杉原)という連携が大一番で出た。

 Jリーグの育成組織から星稜に進んだ選手の中で、最大の成功例はもちろん本田圭佑だ。杉原にとって本田は星稜の10年先輩であるだけでなく、左利きのプレーメーカーとしてお手本になる存在だろう。

 本田が名古屋でプレーしていた時期は、杉原の名古屋U−12在籍時とかぶる。試合観戦はもちろん「同じマンションに名古屋の選手が住んでいて、(本田選手が)遊びに来ていた。エレベーターが一緒で、サインをもらった」(杉原)という接点もあったという。U−15の選手の練習着はトップの選手の“おさがり”を使うが、杉原の24番は本田の当時の背番号。「本田選手なのかな? と思いながら」日々の練習に取り組んでいた。

 星稜は準決勝の壁を突破し、ベスト4に終わった本田世代の成績を上回った。2年連続、2度目の決勝進出で、杉原たちが国立のスタンドで味わった悔しさを晴らす機会も手に入れた。「熱い気持ちを表現できる部活の良さと、(Jの育成組織出身者の)一人一人の技術の高さが、良い感じで融合している」(杉原)という星稜らしさを出したからこその、快勝劇だった。
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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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