流経大柏を支える松本山雅・飯田の教え OBが伝えたプロの知恵と情熱

大島和人

12月に母校の練習を訪れる

流経大柏のOBである飯田(写真は高校時代のもの)は松本山雅でプレーし、今季はJ1昇格に貢献。彼は12月に母校の練習に招かれた 【提供:飯田真輝】

 流通経済大柏(以下、流経大柏/千葉)は4度目の選手権出場にして、3度目となる“ベスト4以上”を決めた。しかし勝ち上がりは決して楽なものでなく、1回戦、2回戦はPK戦。3回戦も後半36分に均衡を破る辛勝だった。そんなぎりぎりの戦いに備えて、本田裕一郎監督が取り入れようとしたのが、J1昇格を決めた松本山雅FCのトレーニングメニューだ。

 12月に松本山雅のDF飯田真輝が練習に招かれた。飯田は本田監督の転任と同時に流経大柏へ入学した卒業生。今季のJ2では高い空中戦勝率を誇り、チームの昇格を支えたセンターバックだ。67才の名伯楽は、新しい取り組みにも貪欲だった。流経大柏の選手に教えたのは主に「走り」と「セットプレー」という、まさに山雅が強みとする部分だ。飯田はこう振り返る。

「まず本田先生に『山雅はどうしてあんなに走れるんだ?』と尋ねられて、12月上旬に練習を1日見ることになりました。12月中旬にも合宿に行くから、2日間くらい来てくれと言われて行きました。走りは主にシャトルランですけれど、山雅も3日に1回くらいしかやらない、理不尽なくらいきついメニューです。自分が2度目に行って教えたのはクロスの守備と、セットプレー。2コマ、1時間ずつくらい見ました。夜は5分間くらいのスピーチもしました。セットプレーはまずは基礎をやって、その後は相手がここを突いてきたらどう対応するかという応用。サブの選手にも技術があるから、練習にリアリティーがありました」

スピーチで選手に伝えたこと

選手たちに物足りなさを感じた飯田は、スピーチで熱い想いを訴えかけた 【スポーツナビ】

 飯田が流経大柏に入学したのは2001年。当時はまだ今ほどの強豪でなく、飯田も選手権に出場していない。部員も50〜60人ほどで、今とは比べ物にならない小規模なチームだった。

「今のチームは本当にうまいです。ただ、僕の目から見て『この子たちは手がかかるんだな』とも思いました。俺らのときは『やるしかない』という、松本山雅みたいな感じでした。今のチームは手を抜いているわけじゃないけれど、練習がそんなにピリッとしていない」

 物足りなさを感じた飯田は、スピーチで選手に熱く訴えたという。

「3年間で36か月。ラストの2カ月は引退したとして、もう34分の33が終わってあと『1』しか残ってない。だけど『これで本当に満足して引退できるのか?』というのは、すごく伝えたかった。『自分がピッチに立てなくても、隣の奴を素直に応援できるか? 逆に隣の奴が、自分を応援してくれるか? お互いに聞いてみろ』と問いかけました。まず自分がやっているというのが第一で、人に言えるのは自分がやっている奴。今の山雅がそういうチームだけど、人に認められていれば『お前に言われたくないよ』とはならないんです。スピーチの次の日の練習は、選手が自主的に動き始めました。何をやったかは分からないですけれど、しっかり準備をしてきたことが分かってうれしかった。昨日までのらりくらりしていたのが、闘争心のある顔をしていました」

 飯田は1回戦・作陽(岡山)戦(3−3、PK戦8−7)をフクダ電子アリーナで見て、選手たちのスイッチが入ったときの頑張り、そしてチームの勝負強さを実感したという。

「現場でビックリしました。(練習とは)ガラッと変わっていた。3点入れられたことを抜きにして、スイッチが入ったらすごいと思いました。このチームは本番の強さがありますね。1回戦は僕も負けたと思いました。アディショナルタイムの表示が3分。93分の十何秒くらいに、1回(タイムアップの)笛が鳴ってもいいタイミングがあった。でも審判が鳴らさずにそのまま続いて、(流経大柏が)その流れから点を取って、ゴールが決まった瞬間に笛が吹かれた。『持っている』というか、執念というか――。そういうものを感じました」

「自分に胸を張れる毎日を過ごしてほしい」

飯田が特に高く評価する選手が澤田(7番)。献身的なプレーを称えた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 飯田がチームを見た中で、特に高く評価する選手が澤田篤樹だ。

「彼は隠れていますけれど……。中田英寿さんに似ている澤田くんには“山雅っぽい”匂いを感じます。この子は本当に献身的で、身体を張って相手をよくつぶす。ものすごいスライディングをするんです。もちろん他にも良い選手はいますけれど、こういう目立たない選手が身体を張るから、他の子も生きている」

 最後に準決勝と決勝、そしてその先のサッカー人生に向けて、飯田から流経大柏の部員にメッセージを述べてもらった。

「例えばプロになれば、自分のためにだけサッカーをすることはできない。そうなったときは自分に自信を持てる、胸を張れる毎日を過ごしていない限り、他の人も絶対に納得させられないと思うんです。頑張ったのにブーイングをされて、頑張るのがバカらしいってなる人もいる。でも自分に自信を持てる、胸を張れる毎日を送っていれば、前向きに切り替えられる。高校サッカーが終わっても“自分に胸を張れる毎日を過ごしてほしい”ということに尽きます」

 山雅直伝の“走り”があったからこそ、今大会の流経大柏は終盤に粘れた。「自分がやっていると自信を持てるか? 胸を張れるか?」という問いかけが響いたからこそ、個性派軍団が苦しい試合を乗り越えられた。プロの知恵と、OBの情熱を糧にして、流経大柏は準決勝、決勝の舞台となる埼玉スタジアムのピッチに立とうとしている。
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著者プロフィール

1976年生まれ。生まれが横浜で育ちは埼玉。現在は東京都(神奈川県に非ず)町田市に在住している。サッカーは親にやらされたが好きになれず、Jリーグ開幕後に観戦者として魅力へ目覚めた。学生時代は渋谷の某放送局で海外スポーツのリサーチを担当し、留年するほどのめり込む。卒業後は堅気転向を志して某外資系損保などに勤務するも足を洗いきれず、2010年より球技ライターとしてメジャー活動を開始。

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