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磐田加入内定の大型FW岩元颯オリビエ
Jクラブから高校へ移り得たもの

京都ユースから鹿児島城西へ

今年2月にチームへやってきた岩元颯オリビエ。鹿児島城西のエース番号9を託され、最初で最後の選手権へと挑む
今年2月にチームへやってきた岩元颯オリビエ。鹿児島城西のエース番号9を託され、最初で最後の選手権へと挑む【安藤隆人】

 今年2月、京都から大型ストライカーが鹿児島に帰ってきた。


 岩元颯(いわもとりゅう)オリビエ。彼は鹿児島で小学校時代まで過ごした。川上SSSの不動のセンターFWとして君臨。小学生ながら、ポストプレーがうまく、身体を張って最前線で起点になれる選手だった。この才能に目を付けたのが、京都サンガF.C.だった。中学進学と同時に、京都U−15に加入し、京都での新生活をスタートさせた。


 京都加入後、持ち前のポストワークに磨きをかけただけでなく、足下の技術も磨かれたことで、彼はアタッカーとしての能力をワンランクもツーランクも向上させた。しかし、小学校時代まであった『迫力』という面では、影を潜めてしまった。


 京都U−18でも才能の片鱗を見せていたが、ゴール前での迫力は物足りなさを感じるものだった。しかし、彼も高校3年になろうとする春、大きな転機を迎えた。


 2月に京都を離れ、故郷・鹿児島にある強豪・鹿児島城西に編入学をしたのだ。環境が抜群で、レベルも高いJクラブユースから、高校サッカーへ。しかも、鹿児島城西のグラウンドは全面土のグラウンドで、当然クラブハウスもなく、プレハブのような部室のみ。さらにグラウンドまでの往復は寮から徒歩圏内ではなく、自転車で傾斜のある山道を30分以上超えていかないとたどり着かない。


 環境はまさに雲泥の差。だが、この環境の差と、この環境下でサッカーに打ち込む仲間たちの『熱』が彼を大きく変化させた。


「最初は本当に驚きましたよ。『え、こんなにも違うの!?』って(笑)。でも、すぐに慣れました。この環境だからこそ、意識しなければいけないこともあるし、良い環境では気付かなかったことも多かった。それに気付けたことはすごく大きなことだし、これまでの自分に無かったものをつかむことができました」


 これまでの自分に無かったもの。それはまさに“迫力”、“強引さ”だ。土のグラウンドは人工芝と違って、リバウンドが起こりやすい。雨が降ると足下が緩んで、踏ん張りもきかないときもある。その中でしっかりとボールを止めて、蹴る、そしてドリブルをするには、強靭な足腰と正確にボールを捉える技術がいる。これまでそういう意識をしてこなかったからこそ、この環境は彼にとって新鮮だった。


「シュート練習一つにしても、意識をしないといけない。しっかりボールの真芯を捉えられるか、ゴールに正確に飛ばすことができるか。足腰の使い方、身体の使い方も気を配るようになった」


 さらにグラウンドまでの自転車の往復で、足腰も鍛えられた。夏になると、身体は一回り大きくなり、どこかひ弱さが残った去年までとは見違えるほどになった。


「これまでは接触プレーで負けることが多かったけれど、今はそうではなくなった。というより、これまで接触プレーを避けている面があった。でも、それでは相手にとって怖くはないし、もっと上のレベルでやるためには、避けていては駄目。正直、高校3年になってこれを身につけていては遅いと思うけれど、だからこそこの1年を通して、必死で取り戻す気持ちでやっています」

偉大な9番を背負うことの責任

 彼のスケールを大きくした要因はもう1つある。それは彼に託された背番号9だ。鹿児島城西の背番号9は、チームを87回選手権で準優勝に導いたFW大迫勇也(現ケルン)が背負ったエースナンバー。この偉大な番号を、2月にチームにやってきたばかりの彼に託した。それを決断した小久保悟監督、それを認めたチームメート、スタッフの想いは、彼が一番理解している。


「鹿児島城西の9番を背負うということだけで、責任の重さ、周りから求められているものの大きさを感じます。それに似合う立ち振る舞い、プレーをしないと意味が無い」


 エースとしての自覚が彼の成長速度を一気に早め、プリンスリーグ九州でチーム最多の11ゴールをマークした。


 しかし、高校総体予選では準決勝でライバル・鹿児島実業に0−1で敗れた。この試合でシュートを1本も打てなかった彼は、その責務を果たせなかった自分を責めた。選手権予選決勝でも、神村学園に1−0で勝利こそしたが、ゴールを挙げることができなかった。


 エースの責務は全国で果たす――。卒業後にジュビロ磐田への加入が内定しており、J内定選手として注目を集める中でのプレーになる。しかも、初戦の相手は強豪・星稜(石川)。2回戦屈指の好カードを制して勢いに乗るには、エースの爆発無くして成し得ない。


「応援してくれる人たちのためにも、最後の選手権は堂々と戦いたい。強い気持ちを持って最後まで戦い続ける、プレーし続ける。それをやらないと僕がここに来た意味が無くなる」


 ゴール前での迫力と推進力。パワーアップしたストライカーの真価は、彼にとって最初で最後の選手権で問われる。

安藤隆人
安藤隆人

大学卒業後、5年半勤めた銀行を退職して単身上京し、フリーサッカージャーナリストに転身した異色の経歴を持つ。ユース年代に情熱を注ぎ、日本全国、世界各国を旅し、ユース年代の発展に注力する。2012年1月にこれまでのサッカージャーナリスト人生の一つの集大成と言える、『走り続ける才能たち 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)を出版。筆者自身のサッカー人生からスタートし、銀行員時代に夢と現実のはざまに苦しみながらも、そこで出会った高校1年生の本田圭佑、岡崎慎司、香川真司ら才能たちの取材、会話を通じて夢を現実に変えていく過程を書き上げた。13年12月には実話を集めた『高校サッカー 心揺さぶる11の物語』(カンゼン)を発刊。ほかにも『高校サッカー聖地物語 僕らが熱くなれる場所』(講談社)、があり、雑誌では『Number』、サッカー専門誌などに寄稿。昨年まで1年間、週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』を連載した。

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