選手権の流通経済大柏はアタリかハズレか 爆発力を持つチームに求められる安定感

平野貴也

今季のチームも戦力は十分

激戦区・千葉を制した流通経済大柏。決勝では市立船橋を大逆転で下し、選手権への切符をつかんだ 【平野貴也】

 2014年のシーズンが始まろうとしていた3月、流通経済大柏(千葉)を訪ねた。本田裕一郎監督に話を聞いた後、選手にも取材をしたいと告げると「どうぞ。サッカーの話を聞くなら、相澤(祥太)がいいよ」と返って来た。新しいチームの司令塔だった。その少し前、2月にジャパンユースサッカースーパーリーグという準公式戦で四日市中央工業(三重)を6−2で破った試合を見ていたが、中盤で圧倒的な技術と戦術眼を見せていたのが、ボランチの相澤だった。相手の寄せなど問題ないとばかりに鮮やかにボールをさばく姿に、敵将である樋口士郎監督が「あの子は、年代別の日本代表じゃないの?」と目を丸くしていた。

 相澤がさばき、左から長身でスピードがあり、高精度の左足を武器とする小川諒也(FC東京に内定)が仕掛け、ゴールセンスに長けたFW高沢優也が決めるという形もできていた。流経大柏は毎年、国内トップクラスの選手層を誇り、激しいポジション争いの中で選手がもまれて強くなっていく。前年には高校勢として初のプレミアリーグチャンピオンシップを制覇したが、次の年も戦力は十分だと確認させられた試合だった。ところが、このチームは、すんなりとはいかなかった。

リーダーを欠く個性派集団

FC東京内定の小川など優れた個の力を生かせず、調子の波が激しいシーズンを過ごした 【平野貴也】

 7月、相澤の腕に巻かれていたキャプテンマークは、MF久保和己へと渡っていた。相澤は「5月の市立船橋戦を機に、クビになりました。昨年の石田(和希=流通経済大)さんみたいなしっかりとしたキャプテンがいない上に、オレらは個性が強過ぎて、まとまらない。それに昨年のオレたちみたいに、上の世代に文句を言う2年生もいないから言い合いにもならない。オレらはダメなんですよ。スタッフに『こんなことでいいと思っているのか』なんて言われても、別にいいよな? って、悪い方にまとまっちゃうから」と話し、ケラケラと笑っていた。

 リーダーを欠く個性派集団は、持てる力を発揮し切れない試合が少なくなかった。総じて失点が多く、成績が安定しない。小川は「首位の柏レイソル(U−18)に勝ったのに、最下位のコンサドーレ(札幌U−18)には負けましたからね」と首をかしげた。調子の波が激しく「アタリ」の日は敵なしだが、「ハズレ」の日は並以下という課題は、シーズン序盤から浮き彫りになっていた。

完成型が見えた県予選決勝

2度のキャプテン交代を経て、腕章は広瀧(中央)へ。メンバーを入れ替え、県予選を制した 【平野貴也】

 夏には全国高校総体の連続出場がストップ。高円宮杯U−18プレミアリーグEASTでも残留争いに巻き込まれる様相を呈していた。さすがにこのままではマズイと舵を切ったのが9月だ。選手権の県予選に向け、メンバーを大幅に入れ替えた。献身性の優れた選手を最終ラインに並べることで安定を図り、腕章はDF広瀧直矢へと受け継がれた。1年で2度目のキャプテン交代だ。小川は攻撃力を生かすためにアタッカーへコンバート。相澤にいたってはスーパーサブになっていた。

 土壇場でチームを作り直しながら臨んだ県予選は、苦戦の連続だった。初戦も準決勝もアディショナルタイム弾での勝利。そして決勝の市立船橋戦でも2点をリードされるという苦しい展開だった。しかし、途中出場の相澤とFW福井崇志が大活躍。PKを含む小川の2得点で後半に追いつくと、最後は相澤のピンポイントパスに福井が飛び込んで決勝点。大逆転で全国大会の切符をつかんだ。相澤は「崇志もそうですけど、自分も集中力がないのでサブになっちゃいました」と相変わらず笑っていたが、ようやく今季の完成型が見えて来たという一戦だった。

まとまりと集中力を持続できるか

唯一の課題はチームとしてのまとまりと集中力を持続できるか。選手権ではどんな仕上がりを見せるのか 【平野貴也】

 先発では左の小川、右の久保が縦へ仕掛け、ヘディングと左足を武器とする高沢が前線でゴールを狙う。そして、途中から県予選で3戦連続の決勝点を決めた福井と、精度の高いキープとキックで攻撃の起点となる相澤が攻撃を活性化する。あとは、切り札を有効に生かせるだけの安定感を先発メンバーが持てるかどうかだ。

 総攻撃を仕掛ける際の爆発力は、市立船橋でさえ自陣ゴールに釘付けにされるほどで、どのチームも止めようがない。しかし、市立船橋戦は、全国の切符がかかった試合で相手が昨季3度も敗れた最大のライバルだったからこそ、自然と一体感のある大きな力が生まれたという部分がある。全国大会でもまだ調子の浮き沈みという不安は付きまとうだろう。

 チームとしてのまとまりを持てるか、そして集中力を持続できるかが最大にして唯一の課題だ。その問題を解消できれば、堂々たる優勝候補と言える。大みそか、フクダ電子アリーナで作陽(岡山)と対戦する流経大柏は、果たして「アタリ」だろうか、それとも「ハズレ」だろうか。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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